医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年9月28日

(373)不妊治療の助成も大事だけど

 いつまでも続きそうだった長期政権が首相の病気から突然崩壊し、菅義偉・新首相の登板になりました。権力闘争とは無縁の外野席からは、まずは順当な流れに見えました。官房長官のイメージが強いため、菅首相は地味な感じがありますが、就任前後に語られた「たたき上げ」物語からは、政治に真面目に取り組む人かもと期待させられます。
 その菅首相が早速、閣僚に注文をつけました。デジタル庁新設、携帯電話料金の値下げ、不妊治療の助成など次々に出てきます。トップダウンで大臣や官庁を自分の思うままに動かしたいところは安倍前首相と同じかも知れません。
 子どもが欲しいのにできない夫婦が頼るのは不妊治療で、最も有効な体外受精や顕微受精は医療保険適用外の自費診療です。ただし、所得や年齢の条件付きですが、国の不妊治療費助成制度があり、体外受精の場合、初回は30万円、2 回目以降 6回目まで15万円が助成されます。クリニックによって治療費も成功率も違いますが 1回数十万円、しかも、1 回で妊娠するとは限らず、また高齢女性ほど成功率は低くなります。経済的な理由で途中で不妊治療をあきらめる夫婦も少なくありません。助成が増えれば助かります。
 日本が直面している大きな問題の 1つは人口減少や少子化です。聞いてみたわけではありませんが、菅首相は不妊治療をその対策と考えているのではないでしょうか。しかし、人口減にはもっと大きな原因があります。男女とも未婚が増え、結婚が遅くなっているうえ、若夫婦が経済面から子どもを持ちにくくなっています。不安定な派遣労働も増える一方です。避妊や中絶も不妊や高齢化に拍車をかけています。人口減対策であれば不妊治療の助成以上に雇用の安定や育児支援策の方が重要です。
 菅首相が言及しているように不妊治療も保険でできるようになれば理想的です。でも今は成績も治療費もバラバラで、標準治療の中身や保険価格を決めるのは簡単ではありません。最終的な治療法は体外受精ですが、漢方薬やレーザーなどの治療で何年も妊娠しなかった女性を自然妊娠させたというクリニックもあります。より有効な不妊治療技術の開発や評価も必要だと思います。

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