医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年7月27日

(364) ‘安楽死’ がまたまた話題に

 京都府警は 7月23日、難病ALSの女性患者から頼まれ、胃ろうから入れた薬で患者を殺したとして 2人の医師を嘱託殺人罪の疑いで逮捕しました。いわゆる「安楽死事件」の 1種ですが、報道では「ALS患者嘱託殺人」との強い見出しになっています。
 ALS(「筋萎縮性側索硬化症」)は脳の指令を筋肉に伝える運動神経の病気です。手足やのど、舌、呼吸などの動きが悪くなり、筋肉がやせ細っていきます。筋肉のけいれんやつっぱりなどで痛みを伴います。
 逮捕されたのは仙台市と東京都港区在住の、いずれも40代の医師。51歳女性の依頼を受け 2人は昨年11月、京都市内の女性宅を短時間訪れ、胃ろうから薬物を投与したとのことです。女性は話せず、手足も動かせませんが、目の動きで入力するパソコンで約 1年前から医師と交信、安楽死を依頼し、東京の医師の口座には約 130万円が振り込まれていました。こうしたやり取りから警察は、依頼による嘱託殺人と判断しました。
 女性の家族は経緯を知らないし、診察もなし、お金が動いている、そのうえ、東京の医師は免許取得に疑惑もある、などからいかにも悪徳医師のような報道になっています。しかし、患者の意思は明確ですし、仙台市の医師は厚生労働省の元技官で、ホスピスを併設するクリニックを開いており、積極的安楽死容認派のようです。2002年からのオランダのように、こうした薬物投与による安楽死も認めている国もありますが、日本はまだそうではありません。
 記憶にあるのは1991年の東海大学安楽死事件です。大学病院の医師が家族の希望を受けて末期がん患者に塩化カリウム剤を注射し、横浜地方裁判所は1995年、医師を殺人罪で有罪と判決しました。たしかその時の判決に安楽死の要件があったはずです。調べてみると・患者に耐えがたい苦痛がある・死期が迫っている・苦痛緩和の手段が他にない・患者の明白な意思表示がある、の 4つでした。今回の事件はこの要件を満たしているようには見えます。成り行きに注目、です。

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