医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2023年10月10日

(516)コロナワクチンのノーベル医学賞

 毎年10月の初めにノーベル賞の発表があります。現役時代は科学系 3賞に日本人が選ばれるかどうかが最大の関心事でした。 1カ月ほど前から専門家の予測を聞き、候補者と目される先生方には発表日前後の行動予定を聞き、予定記事を作ってあった先生にはその後の追加や訂正などを聞くなど、結構大変でした。
 今年の生理学・医学賞はハンガリー出身の女性研究者でドイツのバイオ企業役員カタリン・カリコさんと米国ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授でした。通常は10年もかかる新型コロナワクチンをたった 1年でなしとげたという業績です。
 カリコさんは細胞にたんぱく質を作らせる遺伝子断片mRNAに興味を持ち、研究所を転々としながら人工mRNAでの薬作りに挑戦してきました。しかし、生体細胞は人工mRNAを異物として免疫で排除してしまいます。1997年からのワイスマン教授との共同研究で、mRNAの一部を変え、排除されずにウイルスを抑える抗体を作るのに成功しました。薬開発の最初の成果が新型コロナワクチンでした。
 昨年、 2人は日本国際賞を受賞し、ノーベル賞の最有力候補でした。米国で出版されていた子ども向けの絵本「カタリン・カリコの物語」「ぜったいにあきらめないmRNAワクチンの科学者」の日本語版がタイミング良く今月末に西村書店から出版されると聞いてゲラを見せてもらいました。

 それによると、貧しい家庭で育ったカリコさんは学校の顕微鏡で細胞を見て感動、「科学者になりたい」と言うとお母さんは「あなたがノーベル賞をもらうのを楽しみにしているわ」と答えたそうです。
 ハンガリーの研究所でmRNAを知ったカリコさんは、研究しやすい米国に移ります。確信に満ち、周囲の無理解や嘲笑、資金難にもめげず、一途にmRNAを追い続けた末、ペンシルベニア大学でワイスマン教授に出会い、バイオ企業でワクチンの実用化を進めました。
 副反応が多いとの指摘もありますが、ノーベル賞選考委員会は超短期開発で多くの命が救えたと高く評価しています。

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