医療ジャーナリスト 田辺功

メニューボタン

田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2023年9月4日

(511)海洋放出への中国の対応

 このところ最大の問題は福島原発処理水の海洋放出でしょう。 8月24日の放出開始に対し、香港は10都県の水産物を輸入禁止、中国政府は日本産水産物の輸入全面禁止の措置を取りました。日本の漁業者や水産物関連業者にとって大きな痛手です。
 6月に「原発排水の強行放出は危険」と書きました。処理水はどんどんたまってきて貯留タンクも限界になっています。放射性物質を含んだ水を大量の海水で薄めたこの処理水を政府は環境にも人体にも安全だとしており、国際原子力機関(IAEA)もそれを認めています。注目される放射性物質トリチウムも世界保健機関(WHO)の飲料水基準を大幅に下回っています。だから放出しても危険はないという政府の主張は科学的な見地からは正しいと言えそうです。
 とはいえ、反対の声を無視しての政府の処理水放出は身勝手な感じがあります。政府と東京電力は2015年に福島県漁連に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束文書を出しました。上部組織の全漁連は風評被害の懸念などから反対しており、県漁連が理解しているとは思えません。にもかかわらず、政府は2021年 4月に海洋放出の方針を決めました。いくつかの新聞は「約束を果たさないまま」と批判しています。
 海洋放出が選ばれた理由は監視のしやすさとされていますが、本当はタンク増設や埋め立てに比べると格段に安いコストのせいでしょう。これに対し中国は、安全性に疑念があるとして一貫して反対してきました。政府は漁業者同様に中国も無視です。 2年以上の期間に理解を得る努力をした様子も見えません。放出が危険なのは、安全性よりも国家間の対立が消えないからです。
 事故で想定外の毒物が生まれた可能性もゼロではない気がします。「安全無害というなら、なぜ日本の湖に流さないのか」との中国外務省の指摘にもハッとさせられます。
 輸出減に政府は例によって補助金のばらまき政策で対応します。行き先を失った水産物は国内消費に向かうのでしょう。美味しい魚が安く食べられそう、と喜びたくなります。その一方、各国の原発からトリチウムなどの放射性物質が日常的に大量に海に捨てられていることが報じられました。「食べ過ぎないようにね」という声が耳元で聞こえた気がします。

トップへ戻る