医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年11月30日

(382)医療の裏金がまたまた発覚

 医療機器の導入に絡んでメーカーが医師へ密かに謝礼を払っていたことがまたまた発覚しました。医療問題を取材していると何年かおきに、こうした事件が明るみに出ます。リベートを受け取っていた医師は批判され、転職を余儀なくされたりし、メーカーも一定の処分は受けます。しかし、どちらかといえば「運が悪かったね」で、何年か経てばみんなが忘れてしまう、の繰り返しでした。
 11月24日付け『朝日新聞』によると、背骨や腰の治療で使う脊椎インプラントを販売している米国系の医療機器メーカー「グローバスメディカル」の日本法人は少なくとも昨年1年間で20数人の医師の関係会社に総額 1億円を払っていました。同社が2016年に前身の会社を買収した時から続いていた契約で、販売額の10%前後、医師 1人あたりでは百数十万円から二千数百万円になります。医療機器の採用には現場の医療担当者の意見が重要です。勤務医の給料は一般的にはそう高いとはいえず、身近な先生方は学会の参加費や書籍、交際費などの捻出に苦労しています。学会で重鎮の内科医たちだと製薬会社からの講演料や原稿料ですが、外科系だと医療機器会社からの謝礼、となるのでしょう。
 こうした謝礼は医療機器の購入価格に含まれ、医療をゆがめる行為です。禁じている病院が少なくありません。今回の事件でおやっと思ったのは、米国人社長が「私たちの商習慣や企業理念に反する」として、こうした不明朗な契約の解除を進めているとの状況でした。報道の背景には米国会社の意向が反映していそうです。
 一方、日本の会社や医師、厚生労働省や政府もかなりいい加減です。販売価格の一部を経営者一族の会社に支払ったり、医師個人への謝礼も現存します。時々は内部告発もありますが、調査はその会社に限り、ほとんどは温存です。名目では違法になっている談合のように、日本の業界全体が認める商習慣になっている感じがあります。
 よりよい医療のために、勤務医の働き方、報酬はどうあるべきかを業界がもっと真剣に考えなければなりません。「外国の会社には気をつけよう」で終わってしまうとしたらとても残念です。

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