医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2015年5月25日

(105)救急車は無料のままでいいのでは

 2週間ほど前、麻生太郎・財務相が記者会見で救急車が話題になったとの記事が印象に残りました。麻生一族は九州で有名な名門病院の経営に関わっています。さすが、医療に関心があったんだと見直しましたが、実際には、財務省がお膳立てをしたようです。国のいろんな予算を減らしたい財務省が、消防関係予算に着目、軽症なのに救急車を呼んだ人に費用を請求することを財務制度等審議会に提案しました。
 救急車の有料化案は実はこれまで何度か話題になっています。背景には、出動が年々増えていること、消防隊員の不足、1回に4万円もかかる経費、そして、救急車で運んだ半数が軽症だといったことです。
 有料化は明らかに救急車の出動を減らし、経費を削減する効果が期待できます。海外では、ヨーロッパは無料が多いものの、米国やオーストラリア、ロシア、中国など有料国も結構あります。財務省の資料ではフランスでは軽症者は有料とあり、同省の提案はこれが根底にあるのでしょう。
 軽症者だけからお金を取る、というのは、実際は可能でしょうか。軽症、重症の線引きは専門家でも難しく、だれが判定するのか。その後の急変、手術の失敗で死亡したりと、後々の問題もありえます。まして、素人判断で救急車を呼ばず、病院にも行かない患者が増え、死亡や後遺症が増えた場合には、救急医療の意義にも関わります。
 事故や事件、倒れて虫の息、といった明らかな重症は別として、患者が意識もあり、動ける場合、救急車が来なければ、病人や家族はタクシーを呼びます。救命士付きの救急車、医師・看護師付きのドクターカーならタクシーの何倍もの価値があります。
 私は、救急医療は医療の根幹なので、国はもっと充実させるべきで、救急車も無料でいいと思っています。とはいえ、救急搬送を消防に一方的に押しつけているのも事実です。その負担を減らすため、どうしても有料にするというなら、直接、患者から徴収するよりも、保険で支払う医療費に含めたらどうでしょうか。患者や保険から徴収し、厚生労働省から消防に払うようにすれば、患者の負担も軽減できます。

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