田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(491)筋ジス患者さんの紙粘土物語に感銘
私の住んでいる東京都日野市で開かれた作品展を昨日見てきました。「内田一也の紙粘土でつくる昔々あるところの物語展」( 3月24~28日、イオンモール多摩平の森) です。内田さん(66)が進行性筋ジストロフィーの重症患者と聞いて驚きました。グリム童話や各地の昔話の一場面を紙粘土で再現した数十点の作品は、どれも細かな線に鮮やかな色、迫力に満ちています。
内田さんは青森県八戸市出身で、東京都内の小学校教員でした。40代から異状が出て50代で筋ジスと診断されました。難聴で両耳が聞こえなくなった57歳で退職、妻の裕子さんとの自宅療養生活になりました。病状悪化で 2年間も入院、口で食べれず胃ろうで栄養を取り、気管切開したので話せず、 2年半前に退院したもののベッドで寝たきりの生活になりました。
地域紙の紹介記事によると、内田さんが教員時代に生徒と一緒に紙粘土で作った野菜マグネットが冷蔵庫に貼ってあり、訪問看護師さんがほめてくれました。退職時に生徒に「病気には負けない」と話したことを思い出し、内田さんは野菜マグネット作りを始めました。わずかに動く指先で小型のハサミで丸めた紙粘土に切り込みを入れて作ります。やがて、それがグリム童話や民話の情景描写に発展したわけです。「大きなかぶ」には老夫婦、娘さん、ペット、「鶴の恩返し」には機を織る鶴、女性、老夫婦などと、一つのシーンには何人もの人物や道具、動物が出てきています。内田さんが自分なりに想像した情景です。
3月には千葉県松戸市で、脳卒中などで重いまひになった患者さんたちの絵画や書道の素晴らしい作品展がありました。才能がなければとても無理、とは思いながらも、それに専念し、努力を重ねることで人間はいろんなことができるのかも知れない、という気もします。できないのはやはり努力不足と反省します。
内田さんの努力が元の生徒さんたちに伝わればいいな、と思いました。