医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2021年4月12日

(399)放射能安全の偽情報とは

 何度か書いているように福島原子力発電所事故は衝撃でした。原子炉の潜在エネルギーは膨大ですから、何かのきっかけで大爆発が起きないとも限りません。爆発はしないとしても、たまり続けている放射能汚染水が気がかりです。政府は薄めて海に捨てる方針ですが、漁業関係者は反対です。福島でとれた魚、というだけで消費者は放射能汚染を想像します。どれだけ薄めようと「風評被害」は避けられません。いや、福島の放射能は本当に「風評」なのでしょうか。
 北海道がんセンターの名誉院長、西尾正道先生はずっと昔から私が尊敬している臨床医です。日本の放射線医の多くは診断専門ですが、西尾先生は1974年に札幌医大を卒業し、2013年に院長を退職するまで同じ病院 (旧国立札幌病院) の放射線治療医でした。患者のがん組織を殺すために独自の治療器や治療法を開発しました。誰よりも放射能やその毒性に詳しい医師です。
 その西尾先生の最新の著書『被曝インフォデミック』 (寿郎社) を読みました。インフォデミックは「偽情報の拡散」の意味で、西尾先生は、政府や専門家の流す放射能安全の偽情報に、無知な医師やメディア、国民は騙されている、と警告しています。
日本の放射能安全基準は原発事故後、次々に緩められました。 1ミリシーベルトだった居住地は20ミリシーベルトと20倍でも住めるようになりました。原発などの放射線管理区域内は飲食禁止、18歳未満作業禁止ですが、20ミリシーベルトの住宅は最少線量管理区域の 3.8倍に相当します。ロシアのチェルノブイリ原発事故での居住禁止区域の線量の6.6倍です。体表面の放射能が多いと管理区域から出てはいけなかったのが 7.7倍までOK、放射性廃棄物は80倍に緩まりました。福島県各地の放射線量が新聞に出ていますが、西尾先生が持参の測定器で測った数値と比べると 6割ほどの低い値です。
 放射能汚染水が含むトリチウムは原発から排出されているが、人体への影響はない、とされています。しかし、西尾先生はトリチウムが体内の脂肪組織に取り込まれ、がんなどさまざまな病気の原因になっていると多くの論文や調査を引用して指摘しています。
 安全を裏付ける専門家の多いICRP(国際放射線防護委員会)が実は原子力推進の民間団体で科学性に乏しいこと、一方で反原発団体の主張にも間違いがあることも書かれています。「この10年のインチキな放射線知識の流布に呆れ、失望」し「20~30年後に見直される」と西尾先生が書き残した内容だけに重く受け止めざるを得ません。

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