田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(102)精神保健指定医の取り消し
聖マリアンナ医大病院精神科の医師が、不正に「精神保健指定医」の資格を取得していた、との事件にはちょっとびっくりしました。4月15日の厚生労働省の発表では、何と一度に20人もの指定を取り消す処分を決めたというのですから。日本の専門医制度は諸外国に比べると取得はやさしく、実力が伴っていないのはよく知られており、不正な取得も時々は露見します。しかし、こんなに大量に、というか、大学ぐるみとしか考えられない規模での不正は記憶にないことです。
重い精神障害のある患者を、強制的に入院させることが必要かどうかを判定する場合、精神科医師の専門的な判断が不可欠です。この資格が「精神保健指定医」ですが、5 年以上の実務経験のうえ、治療を担当した入院患者 8人のリポートを提出、審査を経て厚生労働省が指定する、となっています。
報道によると、今年 1月、同大病院の医師の申請リポートが、過去に提出されたリポートとそっくりなことに厚生労働省の職員が気づきました。同大学から申請された 5年分を調べたところ、次々に同じリポートの引写しが見つかった、ということです。11人が、自分が診ていない2010年から昨年夏までの患者のリポートを出していました。さらに、その指導医 9人の責任を問う形で、合わせて20人の資格取り消しを決めたということです。
同大病院では、先輩医師からリポートをもらい、時期などを少し変えて申請するのが常態化していたようです。厚生労働省の職員が今回気づいたのは立派でしたが、これまで大量に見逃していたことも問題です。
日本の精神科病院は世界で断トツの入院ベッド数を持ち、世界で最も長期入院させています。精神科医の多剤大量処方も問題があります。今回のニュースを知り、ひょっとしたら、どの大学出身の精神科医師も患者さんをろくに診なくてもいいからそうしたことがまかり通るのかも、とついつい思ってしまいます。
また、聖マリアンナ医大といえば、日本の精神科の大御所で、厚生行政にも深く関与していた長谷川和夫氏が長く教授を務め、学長、理事長を歴任した大学です。ひょっとしたら特別な大学なので厚生労働省がずっと優遇してきたのかな、という気もしてきます。
さらなる調査に注目、です。