医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2015年4月20日

(101)特定機能病院の取り消し濃厚か

 特定機能病院の取り消しがまた決まりそうです。腹腔鏡による医療事故が続いた群馬大学病院と、小児の麻酔事故が問題になった東京女子医大病院です。特定機能病院の取り消しは社会保障審議会の医療分科会の審議をもとに厚生労働大臣が決めますが、分科会は適切な管理を行ってこなかった両病院の責任を厳しく問う方向です。診療報酬上の優遇措置が取り消されると、病院全体としては、年に何億円もの損失になります。
 まあ、当然ではないか、というのが国民的な感想ではないかと思います。でも、本当にそうでしょうか。私はかねてから特定機能病院の制度に疑問を感じていました。
 医療法改正で特定機能病院ができたのは1993年からです。最初は80ある大学病院本院と、国立がんセンター中央病院、国立循環器病センターの82病院で出発、その後、4病院が加わって86病院になっています。
 医療法では一定規模以上、集中治療室などを備え、「高度の医療」「高度の医療技術の開発および評価」「高度の医療に関する研修」の能力のある病院から、厚生労働大臣が承認します。医師や薬剤師も一般病院より多く必要です。
 不思議なのは最初、全部の大学病院が横並びで承認されたことです。今はだいぶ改善されましたが、当時は、同じ大学病院でも教授ごとの診療科は独立王国で、診療水準もピンからキリまで、は医療界の常識でした。「神の手」の心臓外科の隣に全国最低レベルの消化器外科が共存していました。病院単位の認定だと、消化器外科の患者さんは低レベル医療なのに高い自己負担金を払うことになります。
 日本の医療は厚生省(当時)が絶対権限を持っていましたが、医学教育は文部省(同)の縄張りで、大学病院も文部省の影響が強かったのです。それを弱め、大学に影響力を持ちたい厚生省が知恵を絞ったのが特定機能病院と診療報酬でのコントロールだったというわけです「質の高い医療」は本来、厚生省が目ざすべき目標ですが、今回の群馬大学病院でもわかるように、一律の指定では単なる口実にすぎませんでした。
 私は、その病院の診療科単位でもまだ不十分で、客観的に優れた技術に限って特定機能診療とし、高い診療報酬で優遇すべきと思います。その数がA大学病院では6つ、B大学病院は18、C大学病院は22だとなれば、患者さんにもわかりやすい、医療の質の指標になります。病院や医師のやる気競争が始まるかもしれません。

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