医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2013年3月4日

(1)TPPには不合理改善効果も

 つい先日、某テレビ番組から、環太平洋経済連携協定(TPP)が医療に及ぼす影響についての解説を求められました。自民党や安倍首相は『「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対」と、いかにも反対ポーズでしたが、日米首脳会談後に豹変しました。「政治的」は論理や理屈抜きで決めることですから驚きはしませんが、TPPが急に現実味を増してきました。
 正直のところ、私はものすごく心配しています。何よりも農業・食糧問題です。日本の農産物はどれもこれも国際市場の何倍も高く、農業は構造的に成り立ちません。当面は農作物や食品が安くなるとしても、果して安定な輸入がずっと可能かどうか。政府の交渉力や商社の実力が不安です。 農業に比べると医療は構造的にはしっかりしています。私は「医療保険制度がすぐに崩壊することはなく、むしろ、TPPという外圧で、不合理を改善できるかも」と、やや楽観的な意見を述べました。
 日本医師会などがTPP反対なのは、混合診療(保険診療と自費診療の併用)の解禁、営利企業の参入などで医療保険制度が骨抜きになり、富裕層しか十分な医療が受けられなくなる、との理由です。混合診療は実際には患者にプラスのことも多く、大学病院は解禁賛成です。医療や介護の報酬は低すぎて、とくに海外からの営利企業が参入する可能性はないでしょう。米国自身が公的制度を模索しており、医療保険制度そのものは標的にはなりません。国内的、財政的理由からの制度崩壊ならありそうですが。
 日本の医療で問題なのは、個々の医療費(診療報酬)や制度を国(厚生労働省)が一存で決めるため、不合理が少なくないことです。病院や学会、メディアがどれだけ批判しようとも、国の担当者が受け入れない限り、是正はありません。TPPは国際的な常識、が基本ですから、日本だけの常識や制度は厳しい抵抗を浴びると思います。薬や医療機器の審査も合理的でない部分が減り、期間短縮になりそうです。

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