田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(85)再現できなかったSTAP細胞
簡単な酸処理でできたという新型万能細胞・STAP細胞の再現に取り組んでいた理化学研究所の検証実験が、この数日の大きな話題でした。論文の共著者でもある丹羽仁史チームリーダーは12月19日午前の会見で、研究所として行った自分たちの実験でも、小保方晴子さん本人の実験でも再現できなかったことを公表しました。
論文にいろんな疑問が出てから、STAP細胞の存在はすでに風前のともしび。何よりも海外のいくつかのチームの追試が成功しなかったことが致命的でした。同じやり方で同じ結果が出なければ、科学とはいえません。かなりの細胞を使っての実験ですから、論文が根本的に間違っていたとしか言いようがありません。
私の古巣の『朝日新聞』は、朝夕刊連続4回も1面トップ記事を続けました。
12月18日夕刊「STAP実験打ち切り」
12月19日朝刊「STAP『存在せず』濃厚」
12月19日夕刊「STAP細胞作れず」
12月20日朝刊「理研 STAP細胞存在否定」
なぜこんなミスが起きたのか。それを掘り下げるべき新聞が、大見出し、長行の記事を書きながらほとんど何も伝えていないのが驚きです。
もともとのアイデアは小保方さんが留学した米国の教授のようです。小保方さんができたと勘違いしたらこれはすごい、ノーベル賞級だと、業績を上げたい周囲の研究者が損得勘定から群がり、名前だけでもとチームに参加を希望、一方、何でもいいから国からの予算を増やしたい研究所が乗っかり大宣伝、女性に弱いメディアがそれに拍車をかけた、といった構図でしょうか。内容も知らずに論文の共著者になった研究者は失格です。
今年の青色レーザーのノーベル賞騒ぎも目に余りました。メディアは『ネーチャー』やノーベル賞が研究者の最終目標のような扱いです。権威ある専門誌や賞といえど審査するのは普通の研究者たち。彼らの見落とし、勘違いも少なくないのに、追随するだけのメディアも情けない限りです。