田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(408)アルツハイマー新薬、期待大きいが
代表的な認知症・アルツハイマー病の新しい治療薬が 6月 9日、条件付きながら米国FDA(食品医薬品局)から認可された、というニュースが世界中に広がりました。開発したのは米国の製薬会社バイオジェンと日本のエーザイです。
アルツハイマー病の根本原因は「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれるたんぱく質が脳内にたまって神経細胞が壊れるため、というのが世界的な定説でした。ドネペジル(アリセプト)などすでに 4種類の薬が市場に出ていますが、実はこれらはどれも神経伝達物質に作用して進行を遅らせる傍系原因絡みの薬でした。
アミロイドβの蓄積を防ぐか除去する薬の開発はこれまでことごとく失敗してきたのですが、実用第 1号が今回の点滴治療薬「アデュカヌマブ」です。原因に直結するアミロイドβ絡みの薬だけに期待が集まっており、これまでの薬以上に有効で、病気の進行を長期間抑える効果が期待されています。ただし、臨床試験では不確実なところもあり、条件付きというのは、それを今後の試験で補うべきとの指示です。
日本人の認知症は 600万人で、アルツハイマー病だけで 400万人にのぼります。アデュカヌマブはぜひとも患者さんに効いて欲しいのですが、おそらくは今の薬程度の効果しかないでしょう。私は医療ジャーナリストとして「松澤式」の診断・治療法を紹介してきました。放射線科医の松澤大樹・東北大学名誉教授は最初はアミロイドβの蓄積で大脳が萎縮して認知症になるとの定説を証明するつもりでした。そこでアルツハイマー病や精神病の患者さん多数の脳のX線やMRI(磁気共鳴断層撮影)画像を撮ったのですが、意外なことに大脳の萎縮と認知症は関係なかったのです。原因追究の結果、アルツハイマー病は脳の扁桃体の傷と海馬の萎縮が原因と突き止め、精神病薬と抗うつ病薬で半数もの患者さんが治ったことも報告しています。
しかし、松澤さんの論文は定説とあまりにも違いすぎ、アミロイド説を信奉する研究者の拒絶で世界の一流研究誌には掲載されないまま終わっています。一流誌に載らない研究はトップ研究者には存在しない研究なのです。
医療界というのは本当に不思議な世界だと思います。