医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2021年2月8日

(390)医師の倫理に反する三重大学病院事件

 新型コロナのかげであまり大きな扱いではありませんが、気になるニュースがありました。三重大学病院の臨床麻酔部の贈収賄事件です。医師の倫理観は何十年経っても変わらないなあとがっくりです。
 愛知・三重県警の合同捜査本部は 1月 6日、同病院の元教授(臨床麻酔部長)と元部下の医師 2人を収賄、医療機器メーカーN社社員 3人を贈賄の疑いで逮捕しました。元教授らは病院にN社製機器を採用させる見返りに 200万円を受け取ったとのことです。
 実は昨年12月初め、元准教授がカルテ改ざんで津地検に逮捕されています。使っていない薬を手術時に使ったとして診療報酬も不正請求したようですが、その理由は、元教授がその薬を積極的に使えと指示、元准教授は上司の意に添いごまかしもしたということのようです。その不正は 3カ月前、病院長が記者会見で公表し、周知のことでした。元教授には製薬メーカーから 200万円の寄付があり、直後から薬の使用量は急増しました。
 企業を儲けさせ一定の対価を受け取る古典的な贈収賄事件です。お金のために落札を算段したり、必ずしも必要でない薬を大量消費するなどは医師の倫理に反します。教授、准教授以下、臨床麻酔部全体が異常で、病院が改善に乗り出すのは当然でしょう。
 ところで、医療専門誌『集中』 2月号の記事を読んで、必ずしも単純な事件ではないのかも知れないと思わせられました。普通なら不祥事は隠そうとするのに、発端が病院長の会見とは奇妙です。元教授は指導に熱心で人気は高く、お金はみんなでの飲食経費用だったといいます。それも今のところ 2件合わせて 400万円ではさほど大きな金額とはいえません。また、昨秋には10人もの麻酔医が一斉退職していますが、病院への反発のように感じられます。
 そもそも地検と 2県警が乗り出す捜査というのも珍しいのではないでしょうか。ひょっとすると想像を超える背景を持つ複雑な事件の可能性もあります。捜査の進展を注目したいと思います。

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