田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(34)日本人のブランド志向
まじめな関係者には申し訳ないですが、阪急阪神ホテルズの「不適切表示」料理事件にはつい笑ってしまいました。直営ホテルや一流ホテルのレストランや宴会場でのメニュー表示に間違いがあったというのです。最初の発表では、47種類の料理で約 8万人分の食事が該当したそうです。
「津軽地鶏」が地鶏でなく、「九条ネギ」「霧島ポーク」「沖縄まーさん豚」「信州そば」などが別の産地だとか、「鮮魚」や「旬鮮魚」が冷凍魚、「自家菜園野菜」がよその農家産、種類が違う魚介類、などというのもありました。 7年間もずっと続いていたそうで、1 億円以上の返金になるなど問題が大きくなっています。
四国と九州の間の同じ海で取れた魚が、九州の漁港に水揚げされるとブランド品になって倍の値段がつくというのは有名な話です。そこで四国の漁港から九州に魚が売られ、ブランド品に化けます。
産地偽装で高く売る商売ができるのは、味や品質が消費者にわかるほど差がないからです。多くのブランドは宣伝のくり返しの成果で、名前が広く知られている、というだけのこと。本当の名産地でもその年の気候や場所によりでき損ないになり、普通の産地でも突然、いい作物ができることがあります。美味しさ、栄養価、といった客観的な指標でなく、ブランドだけで 2倍、 3倍という価格設定がごまかしを生みます。中国産、福島県産のようなマイナスブランドもあります。最近も中国産ウナギを静岡産、愛知産とした 2つの事件が発覚しました。
背景には日本人の「みんなと同じ」同質意識もあるかも知れません。同じ出身県、高校、大学、年齢、企業、職業などを等質に扱い、きめつけ、時にはそれがブランドになります。同じ大学出身でもあっても、聖人君子から詐欺師までピンキリ、が現実です。
野菜や魚や家畜の方が人間よりは遺伝子幅が狭いでしょうが、同じ地域でも土や水は違うので、まったく同じ味や品質にはなりません。産地表示は必要ですが、品質と関係なくタレント的なブランドで価格差を作ること自体が間違いだと思います。