田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(92)「えん罪が当然」では困ります
通勤の行き帰りに文庫本の推理小説を読むのが楽しみです。昔買って読んだ本ですが、驚いたことに、内容はすっかり忘れてしまっています。だから、新しく買ったのと変わらずに楽しめます。
偶然ですが、最近の2、3冊に共通して誤認逮捕が出てきました。他の県警では、少しは動機があってアリバイのない男を犯人だと信じ込んで逮捕するのですが、主人公の賢い警部は疑問を持ちます。真犯人が警察をあざ笑っているのではないだろうかと。
今月初め、パソコン遠隔操作事件の判決が東京地裁でありました。30代の元IT会社員は2012年夏から秋にかけ、遠隔操作ウイルスを他人のパソコンに感染させ、旅客機の爆破や幼稚園襲撃などの犯罪予告をインターネットの掲示板などに書き込みました。この事件では少なくとも5人のパソコンが発信元と疑われ、持主4人が誤認逮捕されました。裁判長は「見ず知らずの第三者を犯人に仕立てた悪質な犯罪」と、懲役8年の刑を言い渡しました。
犯人が悪いのは当然としても、気になるのは誤認逮捕まで犯人のせいになっている感じが、裁判にも報道にもあることです。
東京都の19歳の男子大学生は神奈川県警、大阪府の40代男性は大阪府警、福岡県の20代男性は東京警視庁、三重県の20代男性は三重県警が逮捕しました。無実だった4人はもちろん当初は否認しましたが、神奈川県警と大阪府警は見事に2人に容疑を認めさせ、大学生を保護観察処分に、40代男性を起訴しました。
パソコンのアドレスはいわば指紋や遺留品のようなものです。推理小説では殺害現場に犯人のライターやハンカチや指紋をわざわざ残しておきます。犯人は最初から別人の犯行にしようと意図し、その時間に呼び出し、待ちぼうけを食わしたりして、アリバイがないようにします。
パソコン事件から見ると、日本でえん罪が多発するのは当然です。裁判は自白を重視していますが、警察は無実の人の半分に自白させるのですから。