田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(90)介護の人手が足らない
特別養護老人ホーム (特養) など介護施設の職員不足が深刻さを増しています。『朝日新聞』 (1月5日付) は東京都高齢者福祉施設協議会の実態調査を報じました。それによると、回答した都内の305施設のうち145施設が、各施設が決めている職員定数を満たしておらず、9施設は国の最低基準も下回っていました。この施設とは限りませんが、空室があるのに入居者を受け入れていないのも同じ9施設、ショートステイを中止・削減したのも9施設ありました。
同紙は、経済面のシリーズ企画でその後、くわしい情報をまとめています。低い給料、きつい労働にやめる職員が出ると、夜勤回数が増え、別の職員もやめるという悪循環が始まります。何十万人も待機者がいる特養を開設したのに職員が集まらず、100室のうち40室が空いている特養もあるそうです。何ともったいない、チグハグぶりでしょうか。
介護職員の平均月収22万円は、全産業平均の32万円を大きく下回っています。それなのに政府は2015年度予算案で、介護保険による報酬額を2.27%引き下げました。当然ながら施設の収入はその分減ってしまいます。
財務省はこう説明しています。特養の収益は中小企業を上回り、1施設平均3億円の内部留保金があるのに職員の待遇改善には回っていない。介護報酬を減らす代わり、職員の給料を上げる施設にはその分の補助を出せばよいではないか。実際、2009年から介護職員処遇改善交付金制度が作られ、それを増額し、介護保険の支出減らしと給料アップを両立させるというのです。
疑問はあります。過大な内部留保を取り崩す意図はよいとしても、3億円は平均ですから余裕のない特養もありそうです。さらに特養以外の施設、とくにNPO 法人などが展開している、内部留保がありそうもない小規模施設は減収に耐えられるでしょうか。
全国には他の業種から参入し、高齢者を食い物にしている介護施設も少なくないようです。理事長一族が法外な収益を得て問題になったケースもあります。そうした施設のチェックは重要ですが、介護される高齢者の利益がもっと重要です。