田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(83)腹腔鏡での死亡事故から
少し前ですが、群馬大学病院で腹腔鏡(ふくくうきょう)手術で患者8人が死亡していたことが話題になりました。私は早くから腹腔鏡手術の普及を支援してきたつもりということもあり、とても残念に思っています。
11月14日に病院が記者会見して明らかにしました。それによると、2010年12月から14年6月までの3年半に同大学病院第二外科で腹腔鏡による肝臓切除手術を受けた患者92人のうち8人が、手術後100日以内に容体悪化で亡くなっていました。いずれも執刀したのは40代の男性医師でした。
亡くなった8人はいずれも難度の高い保険適用外の手術だったといいます。病院の内規では臨床試験審査委員会の審査や、臨床倫理委員会への申請などが必要でしたが、この医師は手続きを無視し、ほとんど申請はしていませんでした。
腹腔鏡手術は、体への負担を軽くし、早期回復・退院が目的です。ふつうは大きく腹部を切り開き、臓器周囲をよく観察して手術するところを、数個の穴を開け、そこからカメラや器具を挿入して手術します。視野が限られ、器具を動かせる範囲も狭まります。開腹すれば簡単なことが、気づかなかったり、見落としたりしがちです。医師は何倍も注意が必要で、技術も求められ、時間もかかります。
腹腔鏡手術は、医師に厳しく、患者に優しい手術といわれます。患者の負担が軽くなるからです。この春には千葉県がんセンターでも多数の腹腔鏡手術死が明るみにでましたが、死亡、は患者にとって最大の負担ですから、基本的に間違っています。
病院内の手続きはともかく、日本の医療は病院や医師任せが基本です。厚生労働省は患者が治ろうと死のうと関知しません。治せる新しい治療法が出ても、古い治療法が禁じられるわけではありません。医師は自分のできることをやっていればよいし、できないこともできる制度です。だから技術のない医師が難しい腹腔鏡手術に挑戦するのも自由だし、心臓外科の勤務医が開業して「内科、老人科」を名乗るのも自由です。学会も医師会も見て見ぬふりです。こんなことが何十年も続いてきたのですから、ふしぎです。