田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(73)デング熱の教訓を生かす
熱帯病のデング熱が大きな話題です。始まりは8月27日の厚生労働省発表でした。8月20日に突然の高熱で、さいたま市内の病院に入院した10代女性が、デング熱と診断されたというのです。女性には海外渡航歴がありませんでした。外国から帰国すぐの感染は毎年200人ほどありますが、国内感染とすれば70年ぶりとの、まさにニュースでした。
すぐに頭に浮かんだのは、地球温暖化のせいで、日本にもデング病ウイルスが定着しているのではないか、ということでした。昨年夏、日本を訪れたドイツ人女性がドイツ帰国後にデング熱と診断されました。この女性は山梨県で蚊に刺されたと主張していましたが厚生労働省は国内での感染をはっきり認めず、結局はうやむやに終わりました。
今回の事件で、デング熱の日本定着は確実になりました。翌日8月28日には最初の女性の同級生2人も感染、しかも、東京の代々木公園で蚊に刺されたらしいとわかったからです。それからはあれよあれよ。9月1日には患者は22人、5日には12都道府県67人、と拡大の一途です。場所も代々木公園から新宿中央公園、横浜市の公園と広がり、新宿御苑などが閉鎖されました。9月4日には代々木公園の10カ所のうち 4カ所から採取した蚊からウイルスが検出されました。
媒介するヒトスジシマカは東北地方まで生息しています。幸い、デング熱の大半は高熱と関節痛などやや重い風邪症状で1週間程度で回復します。おそらくは昨年、というより何年か前から患者は出ていたのでしょう。さいたま市の病院の臨床能力に感心させられます。
ところでデング熱は世界で毎年1億人が感染しているそうです。多いのは中南米と東南アジア。数十万人単位のブラジルを筆頭に、ベネズエラ、コロンビア、タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど。東京での騒ぎがこれらの国にどのように伝わっているのか興味があります。ウイルスの撲滅はすぐには困難ですから、いずれにしろ、蚊に刺されないよう注意、医師はデング熱も頭に置いて、というレベルの話でしょう。
むしろ心配なのは、死亡率の高いマラリアの国内侵入です。日本はマラリアを診断できる病院が少なく、治療薬も不備な状態です。今回の教訓は次のマラリアにこそ生かさなければいけない、と思います。