田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(72)国松長官襲撃事件の真犯人
まずは健康回復、とあって8月末の2日間は本当にゆっくりしました。肩のこらない本を読み、テレビのニュースとドラマを見て過ごしました。31日夜、たまたま見たテレビで格段に面白かったのが、テレビ朝日の特集でした。20年近く前に起きた国松長官襲撃事件の真犯人をテレビ朝日記者が追いかけた映像です。
当時は騒然たる世の中でした。1995年 3月20日に地下鉄サリン事件が起き、オウム真理教の関与が疑われ、警察はすぐに教団の手入れを行いました。そして3月30日の朝、出勤しようと自宅を出た国松孝次・警察庁長官が拳銃で撃たれたのです。警視庁は最初からオウムがらみと見て、信者だった警官を逮捕し、ずいぶん長く疑い続けました。しかし、結局は証拠不十分。2010年、事件は時効となり迷宮入りしました。
テレビ朝日によると、犯人は現在84歳で銀行襲撃事件で服役中の男性です。もっともこれは今回初めて出てきた話ではなく、2008年に本人が自供し、警視庁も追及していたとのことです。2012年には『警察庁長官を撃った男』という名指しの本も出版されました。
非事件記者である私は初めて聞く話ばかり。特集の中身は非常に説得力に富んでいて、この男性が真犯人の可能性はかなり高そうだ、と感じました。学生運動の活動家で職務質問した警官を射殺して服役した後、革命家のチェ・ゲバラに憧れ、米国で射撃の訓練をして帰国。オウム真理教の事件に見せかけ、警察による教団壊滅を促進させようと長官を狙った、とのストーリーでした。
とはいえ、少しは疑問もあります。犯行当時は64歳。訓練したとはいえ、射撃の腕は事件犯人ほど上手で、しかも機敏な行動ができたのでしょうか。目撃者の主婦のイメージではもっと若い感じです。男性は孤高の狙撃手という位置づけですが、仲間や資金源は不明のままです。服役理由の警官射殺、銀行襲撃は長官狙撃事件に比べると、いかにも安易すぎる犯罪という気がします。
警察は当初からオウム真理教との思い込みがあったようです。数々の冤罪事件、未解決事件からすると、狙いが外れたら事件は解決できない、というのが、日本の犯罪捜査の本当のレベルなのかも知れません。