田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(59)労働強化に無茶な提案
安倍内閣になってから、日本国民はどんどん危険な方向に向かわせられている、という気がします。尖閣問題は民主党内閣にも大きな責任がありますが、安倍首相の昨年12月の靖国神社参拝は余分でした。政治家は真理に疎くても半歩先を見るのが商売なのにと、信じられない思いです。日中関係ばかりか、日米関係にもきしみを生じさせました。
もう1つ、気になるのは政府の産業競争力会議が検討する「残業代ゼロ」の動きです。経済同友会が提言し、安倍政権の成長戦略に盛り込もうというのだから驚きです。
労働基準法では1日の労働時間を原則8時間とし、残業や休日・深夜の労働には割り増し賃金を払うことを義務づけています。ただし、管理職や一部専門職には定額の給料とし、割り増し賃金を払わない例外が認められています。この範囲を一般の社員まで広げようというのです。
無茶苦茶な提案です。労働基準法は労働者を守る法律ですが、近年は一貫して骨抜き化が進んでいます。そもそも日本は労働時間が長すぎ、生活にゆとりがありません。原因の1つは、人手不足と称して企業が必要人員を雇わず、残業を常態化させているからです。割り増し賃金は企業の違法に対する罰金的な意味があるのに、完全に合法化し、企業の支出を減らそう、というのが今回の提案です。労働者の生活はますますひどくなり、収入も下がり、過労死も増えるでしょう。
小泉内閣の時に派遣業が大幅に拡大され、結果的に若者の雇用の不安定、収入低下、未婚の増加など社会不安を拡大させました。それに付け込むブラック企業も増えました。
そもそも管理職の残業代を払わない、のもおかしいのです。平社員から中間管理職に出世したら収入が減る、のは不合理です。それを逆手に、意味のない管理職を乱造し、給料を減らす、という企業も出てきました。
労働者は要するに国民です。国民を大事にせず、企業利益を重んじる政治家や経済人が支持されているらしいのが、本当に不思議です。