田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(519)物価高騰で危機にひんする病院経営
さまざまな物価の高騰、人員不足などで病院や診療所の経営がこれまでにないほど苦しくなっています。知り合いのお医者さんたちの苦労話である程度は理解しているつもりでしたが、先週、久しぶりに開かれた外保連 (外科系社会保険委員会連合) の記者懇談会ではそれがテーマ。四苦八苦している先生方は偉い! と驚き、心から敬服しました。
主に話されたのは病院経営にあたる 3人の先生でした。
埼玉県立病院機構は循環器呼吸器、がん、小児医療、精神医療の 4つの専門病院を持っています。光熱水費、食材費、委託の人件費、工事や修理費、医療材料費のどれもが高騰していると外保連会長でもある埼玉県立病院機構理事長の岩中督さんは訴えました。
2021、22年度はコロナの病床確保料など国の補助金で国公立病院は黒字でしたが、それが減額された23年度からは厳しい状況です。食材料が高騰すれば飲食店は値上げできますが、医療関係は公的価格なのでそのまま赤字になります。
医療材料費の高騰は医療の質を左右します。血管内治療用のカテーテルや器具などがコスト上昇、円安などで輸入が減り、入手困難になっているほか、保険価格を大幅に超える逆鞘価格になっています。治療をやめる病院も各地で出ています。耐用年数を超えても買換えができず、何とか修理して使う老朽化医療機器も増えています。
がん研究会有明病院副院長の渡邊雅之さんも光熱水費や医療材料費、各種の業務委託費などの高騰の影響を具体的に述べました。人件費、光熱水費、食材費で病院給食は危機的状況になっており、25年も据え置かれている入院食事療養費などの引き上げや、同病院が力を入れている外来での化学療法の評価も要望しました。
社会保険病院や厚生年金病院など57病院を持つ地域医療機能推進機構理事長の山本修一さんによると、一般急性期病院も「補助金を除けば大赤字」です。
山本さんはとくに介護人員の不足を強調しました。入院の高齢者のADLを維持するために土日を休まずリハビリテーションを充実する、介護福祉士を病院に導入する、さらに介護専門職の海外からの受け入れも必要と指摘しました。
国民にとって医療は最も重要な産業です。厚生労働省や財務省は医療の質や量を維持するために真剣に対応して欲しいと思いました。