田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(509)饅頭で事故を防げるとは
高齢運転者の事故が目立っています。急増している感じがありますが、実際には大きな変化はないか、逆に減り気味との調査もあるようです。となると、いくつかの大きな事故の印象が強かったせいかも知れません。
一番に思い出すのは2019年 4月の池袋暴走事故です。87歳の男性が運転する乗用車が東京・東池袋の交差点で歩行者や自転車を次々にはね、自転車の母子 2人が死亡、 9人が負傷しました。運転者が旧通産省の幹部だったこと、そして「ブレーキが利かなかった」と車の異常を訴え、当初は自己の運転過失を認めなかったことで大きなニュースが繰り返されました。
その後、高齢運転手のバスやタクシーの事故、乗用車が商店に突っ込む、高速道路の逆走、といった事故がちょくちょく報道されています。事故の前後を全く覚えておらず、認知症などの病気の可能性もあります。
今年 6月の日本医師会のニュースに、高齢運転手の事故は低血糖による可能性があると指摘した寄稿文があり、興味を引かれました。島健二医師は徳島大学名誉教授で、関連の著書もあると分かり、早速買い求めました。『高齢ドライバーに饅頭ひとつ』 (文藝春秋社) です。
島さんは空腹でデスクワーク中に気分が悪くなり、倦怠感に襲われた。無理に食事をし、その後、饅頭を食べて回復した。高齢運転者事故のニュースがあり、先程の低血糖状態で自分も車を運転していたらと思い、ぞっとしました。空腹、低血糖で思考力が低下している場合、瞬時の判断遅れで誤操作につながると考えたのです。
自動車教習所の協力も得て、85歳の自分を材料に実験し、必ず誤操作になるとは言えないものの、低血糖で認知能力が落ちることは確かめました。
その結論が、高齢者は空腹時には運転せず、食後 2時間以上経った時は、どら焼きや大福、ドーナツなど 1個を食べて運転すること、などの提言です。
事故を起こしたら人生大変です。饅頭などを手元に置いておく。こんな簡単なことで事故が防げるならすごいことだと思います。