田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(504)枯葉剤の悲惨さ訴える映画
坂田雅子監督の最新作「失われた時の中で」にはやはり感動しました。ベトナムの枯葉剤を扱った3本目のこの映画は2022年の製作ですが、先月まで、なかなか見る機会がありませんでした。
坂田さんは大学生の時、京都でベトナム帰還兵グレッグ・デイビスさんと出会い、日本で生活を共にすることになりました。グレッグさんは写真家となり、東南アジア各地を撮影して回っていましたが、2003年に肝臓がんで急死。その原因として南ベトナム駐留時の枯葉剤が疑われました。
枯葉剤を調べた坂田さんはドキュメンタリー映画の製作を思い立ちます。そのために基礎から映画作りを学びました。そして、元気だったデイビスさんの思い出と共にベトナムを訪れ、枯葉剤の被害者家族を取材しました。米軍機で全土にまかれた白とピンクの粉は木を根こそぎ枯らしました。60歳で映画監督に転じた坂田さんの第1作、2007年の「花はどこへいった」は大きな反響を呼びました。
2011年の「沈黙の春を生きて」はレイチェル・カーソンさんの農薬に対する警告書「沈黙の春」と、米企業の「枯葉剤は人体には無害で農地を 1年以上汚染することはない」との偽った説明を対比させています。被害が出ている米国帰還兵の家族、そして第1作から4年後のベトナムの被害者家族の生活が描かれています。
「失われた時の中で」には、経済発展するベトナムで取り残されている被害者家族が次々に登場します。両足がなく義足で働く被害者、複数の被害者のいる家族、そして無医村を回って支援活動を続ける医師、米国政府と企業を相手取った裁判も驚きです。
ダイオキシンを含む枯葉剤はベトちゃんドクちゃんで有名です。ロシアのウクライナ侵略で分かるように今も戦争は絶えず、さまざまな被害者を生んでいます。権力者や体制には「何を言ってもムダ」と諦めてしまいがちですが、坂田さんは発言を続ける一方で、奨学基金を設立し、被害者やきょうだいを支援しています。本当にすごい人です。