田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(503)原発排水の強行放出は危険
事故を起こした東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が大きな問題になってきています。毎日たまり続けている処理水は、この夏にも貯留の限界が来そうです。一方で中国や韓国などの強烈な反対。さあどうなるのでしょうか。
第一原発では原子炉建屋などから発生し続ける放射性物質を含んだ水を二段階で浄化しています。まず、トリチウム以外の放射性物質を基準値以下まで浄化した水を作ります。これを海水で大幅に希釈し、トリチウムも基準値以下にして放出します。政府も国際原子力機関(IAEA)もこの処理水は環境にも人体にも安全としています。
しかし、日本が海洋放出の方針を決めた2021年から、中国は一貫して反対、今年4月の日中外相会議でも議論は平行線のまま終始しました。韓国の前政府は反対でしたが、今の保守政権は日本政府の主張を受け入れようとしています。科学的な根拠を重視するとし、5月には原子力の専門家も含む視察団を福島第一原発に派遣しました。しかし、漁業者を始め、国民の多くは反対のようです。また、太平洋の多くの国々も反対しています。
第一原発事故から何年も風評被害で地元の漁業は壊滅常態でした。今も漁業者は反対ですし、国民の多くも不安を感じています。
日本政府の言い分は科学的には正しいようです。ニューズウィーク紙日本版は今年3月、オーストラリアの専門家群の評価として「原発処理水の海洋放出は安全だ」と題する記事を書きました。それによると処理水のトリチウムは国際保健機関(WHO)の飲料水基準の6分の1以下だし、太平洋の海水には第一原発の総量の3000倍ものトリチウムが含まれています。また、中国の福新原発や韓国の古里原発は第一原発の年間放出予定量の2倍以上を出していました。
似た話を6月の『読売新聞』も報じていました。中国の秦山第三原発は2020年に6.5 倍、21年には陽江原発、寧徳原発、紅沿河原発が5倍から4倍のトリチウムを出していました。平常運転時と事故時のトリチウムの危険が同じであれば、中国や韓国が無視しているのはおかしいことになります。
もし、そうであれば政府は各国とそれこそ「懇切ていねいに話し合い」、各国の政府や国民の納得・理解を得るべきです。海洋放出の強行は日本人を誤解させ、孤立させる危険があると思います。