田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(481)研究者もおかしくなってます
政治家や官僚がおかしい、と思っていたら、どうしてどうして、他の分野の方々も負けず劣らずおかしくなっています。何年か前から製品の品質テストをしなかったり、ごまかしたりした企業が続出、昨年発覚したのは日野自動車や東レ、三菱電機など日本の代表的な大手企業でした。
そして研究者の番です。昨年12月20日、福井大学と千葉大学は学術誌の論文の「査読」で不適切行為があったことを発表しました。査読は投稿された論文をあらかじめ別の研究者に読んでもらい、内容や意義をチェックしてもらいます。論文や雑誌のレベルを維持する重要な仕事で、査読者は出版社が独自に選びます。場合によっては修正や再実験を求めたり、掲載を拒否したりします。
福井大教授の6本の論文が問題になりました。うち5本の査読者になった千葉大教授は福井大教授に連絡しコメントを依頼しました。福井大教授は共著者の2人に指示してコメントを作らせ、受け取った千葉大教授はそれを元にした査読者の評価を出版社に送りました。これでは査読の目的がまったく果たず、やる意味がありません。
告発をもとに調査したオランダの出版社が昨春、福井大に自主的に論文を撤回するよう勧告、両大学は学内に調査委員会を設けました。このことをつかんだ『毎日新聞』が6月にスクープ報道しました。調査の結論が12月に出たわけです。
もう1本の論文の金沢大、浜松医大の元教授の査読もまったく同じでした。著者が推薦した研究者にそのまま査読を依頼する出版社も問題なしとは言えません。これまでは大きな話題になっていませんでしたが、研究者の専門領域が狭くなると仲間ばかりになり、実 際にはこうした骨抜き査読が広く行われている疑いもあります。
そういえば、査読で研究内容を知った研究者が論文掲載を引き延ばし、その仲間が似た研究を先に発表するというひどい話をかつてはよく聞いたことを思い出しました。
研究者の倫理、というのも結構いい加減なのかも知れません。