医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2022年12月27日

(479)身近でない日本の臓器移植

 テレビや新聞のテーマ特集でさほど認識していなかった意外な状況を知ることがあります。日本の臓器移植が多くはないことは分かっていましたが、世界でも際立って少ない、とまでは思っていませんでした。「臓器移植法25年・上」 (「朝日新聞」12月14日付け)のグラフでは、2019年の心停止後および脳死後の臓器提供件数は、人口100万人当たり約1件の日本に対し、トップのスペインが49件、米国が36件、フランス33件、英国24件、ドイツ11件と欧米各国は段違いでした。それどころか、韓国8件、中国も4件をそれぞれ上回っているのですから、日本の少なさは異常です。
 脳死からの移植を認める臓器移植法は25年前、1997年に施行されました。従来は心停止後だった臓器摘出を脳死後に早め、心臓移植ができるようになりました。心臓移植といえば1968年、日本の第1号の和田移植に疑問や批判が集中しました。その影響もあり、本人の提供意思確認文書が絶対条件で、摘出病院の規制などもあり、世界で最も厳しい移植法だともいわれました。
 こうした背景には、脳死は本当に死なのか、間違えて脳死と診断されないか、といった疑問や、臓器優先で患者の治療がおざなりになる、など医療に対する不信がありました。こうした批判的報道に医療界は十分に対応できたとはいえません。また、臓器移植は医師や看護師の仕事を増やし、コーディネーターなどの専門職も必要ですが、政府が十分な人員や経費を認めたともいえません。その結果、臓器移植に積極的な病院はごく少数に限られ、国民の関心も高まりにくかったと思います。
 家族が重症の時を想像してみます。「先生、あの子を助けてください」「残念ですが脳死が近づいています」「何とか助ける方法は」。頭の中は真っ白です。「脳死になられた後ですが」「先生、何とか、お願いです」。切羽つまった状況の時、自分たちの利益と関係ない臓器提供を考える余裕があるでしょうか。
 日本人にとって臓器移植が身近になるにはまだまだ時間がかかりそうです。

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