医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2022年7月12日

(458)胃の切除者にやさしい医療

 日本医学ジャーナリスト協会の 6月例会の司会を頼まれました。協会は医学・医療分野で取材をしているメディアやフリーの記者の会で、私も会員になっています。例会は専門家の講演が中心の勉強会で、今回は 6月21日、オンライン開催でした。講師の東京慈恵会医大教授(臨床検査)中田浩二先生に「胃の切除後障害の克服に向けた取り組み」のテーマで話していただきました。
 実は私は2014年に胃がんで胃の全摘手術を受けました。以前、私が司会したがんセミナーに登場した胃がん手術専門の外科教授は胃がんになり切除手術を受けていました。教授はセミナーで「私は患者に『胃は食物を一時的に貯める袋。なくてもちっとも困らない』と説明してきたが、いやあ患者がこんなにつらいとは思いませんでした」と話しました。そのことを書いた私の文章を読んだ協会員が「司会は田辺さんがいい」と推薦してくれたようです。
 中田先生は慈恵医大を卒業、もともとは消化器外科医で外科講師などを務めました。患者の手術後遺症に関心を持ち、2006年、同じ思いの 6人の外科医と共に「胃癌術後評価を考えるワーキンググループ」を結成、事務局を担当しました。中田先生は「とても真面目な先生」との評判ですが、おそらくは全員がそうなのでしょう。
 グループは約50病院の胃切除患者を対象に症状や食事などの生活状況、身体活動での不満度、QOLなどを調べ、切除後障害の内容、それが少ない手術法や生活状況などを追究し、医療者向けの『胃切除後障害診療ハンドブック』(南江堂)も出版しています。
 中田先生は調査結果をもとに医師や患者はどうすべきかをお話されたので説得力がありました。私は全摘後、腸液や膵液が逆流して食道の組織が荒れ、寒い日や雨模様の日には痛みます。当然ながら患者の症状は全摘が一番多く、「少しでも胃を残す方がよい」との先生の声が響きました。
 切除後障害を減らそうという外科医は増えているとのことです。胃に限らず食道や膵臓も、いや、あらゆる外科で共通の目標になって欲しいと患者は願っています。

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