田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(442)献身的な医師が殺される衝撃
あまりにも次々と事件が起こり、次々に忘れられていく、そんな気がします。これは次回のテーマと思っていたら、新しいテーマが飛び出し、いつの間にか「今さら」になってしまいます。その 1つが、熱心な医師の受難事件でした。
大阪市北区、北新地のビルで放火事件が起きたのは昨年の12月17日でした。 4階の心療内科・精神科「働く人の西梅田こころとからだのクリニック」が放火され、居合わせた医師や医療従事者、患者26人と、火をつけた61歳男性元患者の計27人全員が一酸化炭素中毒で死亡しました。犯人は2019年 7月の京都アニメーション放火事件への関心が強く、自分の診療への不満とはあまり関係がなかったと見られています。
1月27日の夜は埼玉県ふじみ野市の住民がクリニック医師らに散弾銃を撃ち、立てこもる事件でした。医師が死亡し、理学療法士が重傷を負いました。犯人は66歳の男性で、母親が前日に亡くなり、診療への不満があったようです。
亡くなった医師は 2人とも、患者に親切で信頼されていました。大阪の49歳西沢弘太郎 医師は患者が職場復帰できるよう熱心に指導し、埼玉の44歳鈴木純一医師はコロナ下でも訪問診療を続け、地域の在宅医療の中心でした。
「 2つの事件が医師やスタッフに与えたインパクトは甚大」と、鈴木卓・京都府保険医協会理事長が機関紙(京都保険医新聞 2月25日付け) に書いています。献身的に医療をしても理解してもらえない患者や家族がいることの無力感、コロナ下の不備な制度や対応が医療現場のせいとの誤解、密室的な現場では事件を防ぎきれない恐怖感などです。「こんな理不尽が許されてはならない」との記事の副題に同感です。
たしかにメディアは事件報道だけだし、行政も特別な対応はないようです。近年は医療に過大な注文をつけるモンスター患者や家族が増え、どちらかと言えばメディアも行政も患者側のことが多かったように感じます。医療をもっと大事にして守らなければ、と改めて思いました。