医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2022年1月11日

(433)飲む中絶薬の承認申請

 妊娠中絶を簡単にできるという飲み薬が昨年暮れに大きなニュースになりました。英国の製薬企業ラインファーマ社が12月22日、厚生労働省に製造承認申請をしたのです。中絶薬は1988年にフランスで認可されたのが最初ですが、今では80カ国・地域以上で中絶法の中心になっているというから驚きです。
 薬は 2種類で、一般名がミフェプリストンとミソプロストール。ミフェプリストンは妊娠継続に不可欠な黄体ホルモン(プロゲステロン)の働きを邪魔し、子宮内膜を妊娠していない状態に戻してしまいます。ミソプロストールは子宮平滑筋に作用して子宮を収縮させ、胎児を排出します。
 ラインファーマ社によると、日本での治験には妊娠 9週までで中絶を希望する18歳から45歳の女性 120人が参加しました。まずミフェプリストンを 1錠飲み、 2日後にミソプロストール 4錠を飲みます。その結果、 112人 (93%) が24時間以内に中絶に成功し、 8人は時間がかかり過ぎたり、一部が体内に残ったために外科的な処置が必要でした。半数ほどの女性に出た副反応は頭痛や腹痛、嘔吐などでした。
 日本の中絶手術の多くは金属製器具で子宮内容物をかき出す掻爬 (そうは) 法ですが、WHO(世界保健機関)はすでに2012年の解説書で子宮内膜損傷や子宮穿孔(せんこう)のリスクが高い掻爬法を「時代遅れ」と指摘し、吸引法または中絶薬への切り替えを勧めていたそうです。
 どうしても経口避妊薬ピルのことを思い出します。熱心だった産婦人科医らから「認可は近い」と聞いて、朝日新聞の家庭面で応援する 6回の連載記事を書いたのが1975年でした。そして91年に再挑戦した 4回連載時には、日本は避妊分野で「国際社会の孤児」と呼ばれていました。認可されたのは99年で、欧米から40年遅れでした。
 背景には日本の医療は患者のためでなく医師のため、との現実がありました。産婦人科医の多くは収益源の中絶手術を減らしたくなかったのです。
 女性のために必要な中絶薬の承認は急ぐべきです。世界中で使われているのにまさか、審査に何年もかかるはずがないでしょうね。

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