医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2021年10月11日

(422)今年もノーベル賞を楽しむ

 科学系の記者にとって10月の初めは何と言ってもノーベル賞、でした。当時は直接、カロリンスカ研究所の発表はネットから見れず、現地に出向いた特派員や共同通信、AP通信などからの受賞者名と国の速報が出発でした。毎年、毎年、ひょっとしてこの研究者がもらうかも知れないと原稿を用意して、それがほとんど使われずボツになる、の繰り返しでした。毎年のように日本人が受賞するようになったこの頃は、うれしい気持ちはあるものの、後輩たちの苦労が目に浮かびます。
 今年は物理学賞 3人の 1人に、米国プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎さんが選ばれました。90歳という高齢にもかかわらず、お元気な様子、そしておだやかな人柄がとても素敵です。地球の大気の状態をコンピューターで再現し、二酸化炭素が増えると地表の気温が上がることを1960年代に明らかにされたとのことです。まさに現在の地球温暖化による異常気象の先駆的研究です。研究者はそんな昔から危険な兆候を指摘していたのだと感心しました。
 医学・生理学賞は皮膚などにある温度や痛みの受容体を見つけた米国の研究者 2人でした。私は食道表面が荒れていて、気温が低いと痛みます。この受容体も関係しているのだろうな、なんて考えてしまいます。化学賞は有機分子触媒を発見した米国とドイツの研究者でした。薬品作りに役立っている研究とのことです。
 日本人のノーベル賞受賞は2000年以降急増しました。2002年まで 3年連続で田中耕一さん (化学賞) ら 4人の後、 5年間の空白があったものの、2008年は南部陽一郎さん (物理学賞) ら 4人、それからはほぼ毎年で真鍋さんが12人目になります。記憶力の低下もありますが、受賞した人たち全員を思い出せなくなってしまいました。それくらいたくさんになったのはすごいことです。毎年のように韓国の新聞は、韓国の受賞者がなかなか出ないことを嘆いています。
 真鍋さんは早くから米国籍を取得し米国に住んでいます。日本は自由に研究できる環境ではないとの指摘は、政治家や官僚、その人たちと密着する親分的研究者に届いたのでしょうか。

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