医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年10月19日

(376) C型肝炎ウイルスにノーベル賞

 科学関係の記者は毎年10月初めは緊張を強いられます。医学生理学賞を皮切りに、物理学賞、化学賞とノーベル賞受賞者の発表が続くからです。
 私が一番関心を持つのは医学生理学賞です。今年はC型肝炎ウイルスの発見が対象でした。肝炎ウイルスは急性のA型、母子感染のB型、非A非B型と主に 3種類。私が一線記者の頃は輸血で感染し肝がんに進むウイルス不明の非A非B型の患者が何百万人もいて、世界中の研究者がウイルスを追いかけていました。当時の記事から厳しかった研究競争が目に浮かびます。それまでのいくつもの「発見」記事はインチキで、結局は1988年 5月に公表された米国のバイオ企業カイロン社の発見が本物でした。同社のおかげで肝炎が激減し、輸血が安全になり、その後の治療法への道が開けました。受賞する 3人のうち、カナダの大学教授マイケル・ホートンさんだけが中心研究者として当時から名前が出ていましたが、他の 2人の役割は先日の新聞記事でもよく分かりませんでした。
 ノーベル賞は歴史的にも賞金額からも世界最高レベルの賞であることは間違いありません。しかし、分野は限られており、他にも権威のある賞がありますが、日本のメディアの報道は他の賞とはけた外れの大きな扱いです。受賞は学術ニュースを超えた一般ニュースで、首相始めいろんな著名人からの祝辞が殺到、すぐに全国民に覚えられます。受賞者が10人、20人と在籍している大学もある米国ではどんな扱いだろうかと気になります。
 医学生理学賞に比べると、さらに広い分野の化学賞は、近い分野だと一巡するまで機会が遠のきます。物理学賞は近年は大規模、国家的なプロジェクトばかりです。文学賞と経済学賞はなじみが薄く、受賞者はほとんど分かりません。ノルウェーが担当する平和賞に至っては政治家や若者など奇をてらった授賞が目につき、とても公平とは思えない変な賞です。
 このところ、毎年のように誰かがもらっていましたが、今年は久しぶりに日本人はゼロでした。この機会にちょっと斜めに見てみました。

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