医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年7月13日

(362)異常豪雨で気になったいくつか

 近年の異常豪雨には驚きます。ヘリコプターからは、濁った海の中に集落があり、突き出た建物の屋上と多くの屋根が見えます。その原因になった河川の激しい流れ、堤防を超える水など、いつもそっくりの映像です。今月 4日からは熊本県の球磨川流域で大変な被
害が出ました。テレビニュースからいろいろ考えさせられます。
 球磨村の特別養護老人ホームの水没が特に印象的でした。ホームは球磨川と合流する直前の支流脇にあります。豪雨で球磨川も氾濫しましたが、球磨川の水位が高くなって支流も逆流で氾濫しました。気になるのはこのホームが、水没の危険がある国土交通省の「洪水浸水想定区域」内にあることです。2016年の台風の大雨で水没し 9人が亡くなった岩手県の高齢者グループホームも川べりでした。
 施設の経営もさほど楽ではないとは思いますが、危険な場所はその分、地価が安いはずです。ある程度の危険は経営者も自治体も織り込みずみなのでしょう。
 今回、ホームでは14人が亡くなりましたが、 3日近くは「死亡」でない「心肺停止」区別して報道されました。心肺停止は心臓も呼吸も止まった死亡寸前の状態です。そのうえ脈がなく、瞳孔が開いていれば死亡ですが、その診断は医師、歯科医師しかできないよ
うです。現場に医師がおらず、警官や救急隊だと心肺停止としかいえない、というわけです。心肺停止が続くのは医師不在か人工呼吸器などを動かしているかでしょう。医師はいつ診断したのでしょうか。
 新聞などに心肺停止がひんぱんに登場するようになったのは2014年の御嶽山噴火からのようです。おそらくはその頃、医師団体が「医師がいなければ死亡診断できない」と権利を主張したのではないでしょうか。権力に弱い日本のメディアと違い、海外のメディアは「心肺停止は日本独特の表現」として、最初から死亡としているようです。 
 自治体の「避難指示」は時には何万人もの市民全員が対象です。避難所の何倍、何十倍の人はどこへ行くのでしょうか。今は簡単に「洪水浸水想定区域」がわかりますが、そこに家を建て、住むのは勝手、ということでしょうか。 

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