医療ジャーナリスト 田辺功

メニューボタン

田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年3月30日

(348)新型コロナが教えてくれる

 新型コロナウイルスの脅威が結構身近になってきました。都内の感染者がジワジワと増えています。米国やイタリア、スペインには遠く及ばないにしても、毎日、外出の自粛要請などを聞かされていると心配が募ります。
 ウイルスは当初言われたよりは感染力が強まっています。また、地域差があるかも知れませんが、重症者も増えている感じがします。重症者の救命には人工心肺装置が不可欠で、それが不足しているために死者が続出しているという欧州や米国の様子はただならない情勢です。また、ベッドの不足も常態化しているようです。
 こんな時だからでしょうが、病院再編問題が頭に浮かびました。厚生労働省が昨年9月、全国の公立・公的病院の診療実績を分析し、4分の1にあたる国や自治体立の公立257病院、日赤などの公的167病院を再編考慮対象だと指摘した件です。厚労省の最大の関心は医療財政面ですから、患者の多い病気の治療実績や入院患者が少なく空きベッドが多い、いわば効率の悪い病院がやり玉にあがっていました。
 そこにこの新型コロナです。急な感染症が流行すると、多数の入院ベッドがすぐに必要になります。常にある程度の空きベッドがある病院はこうした緊急時に役立ちます。
 多数の人工心肺装置を常備している病院もわずかです。日本の病院は狭すぎて使わない時の保管場所に苦労します。どんな病院、病気にも少数ながら肺炎で死線をさまようような重症者は出うるので、幾台かは配備しておけます。それを感染症室を多少は備えた公立病院などに集めれば対応ができるはずです。今後はそうした可能性を考え、地域ごとに配置しておくべきかも知れません。
 欧州各国に比べて日本は公立病院が少なく、病院再編はそれに拍車をかける方向です。しかし、公立・公的病院は、辺地医療や特殊な病気、民間病院にできない不採算診療をする役割があるはずです。それなのに出費を惜しむ財務省や厚労省は根本から間違っていると思います。新型コロナの教訓です。

トップへ戻る