医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2020年1月14日

(337)診療所の逆ざやにどう対応

 真面目に診療をするほど赤字がふくらみます。どうしたらいいんでしょう…。最近、顔を合わせた歯科医師さんから聞かれ、正直なところ、困ってしまいます。12月初めの全国保険医団体連合会(保団連)の会見でも重要項目として説明があり、1月10日の東京歯科保険医協会メディア懇談会でも話題にのぼりました。
 歯科用貴金属の「金銀パラジウム合金」の価格高騰問題です。昨年10月ごろからその傾向が顕著になり、11月から今月まで上がりっぱなしのようなのです。
 歯を削った後の修復には金属製の詰め物、かぶせものを装着します。この材料が金銀パラジウム合金です。成分は金12%、パラジウム20%に、銀や銅などが含まれています。保険治療では適宜価格を調整していますが、購入価格は保険で支払われる公定価格より2割も高くなっているというのです。現在の公定価格50250円(30グラム、税込み)に対し、保団連の購入価格調査では、10月は63986円、12月は67696円でした。歯科診療所全体で計算すると、診療所が負担する「逆ざや」は月40億円前後、10月から1月までで150億円にものぼります。
 パラジウムは自動車や電気工業部品としても使われる貴金属で需要が急増しており、ロシア、南アフリカなどで産出しますが、国際情勢を反映して投機的対象にもなっているようです。輸入依存のわが国では対応困難です。
 「このままでは治療が続けられなくなる」と保団連や東京歯科保険医協会は訴えています。一定ルールで公定価格の見直しがありますが、独特の計算方式や条件の厳しさでスムーズな対応ができていないのが現実のようです。医療費をできるだけ上げたくないという国の意図は分かるものの、治療できない事態になれば元も子もありません。医科でもままありますが、診療に不可欠な材料や薬は購入価格払いとか国が現物給付する、なども含めて検討すべきと思います。

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