医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2019年12月23日

(335)国境なき医師団には敬服

 「国境なき医師団」が主催する「エンドレスジャーニー展」が東京で開かれました。先週、12月18日から22日までです。私も短時間ですが、寄らせてもらいました。
 会場の半分は、医師団が活躍する世界各地の状況でした。「おびやかされる命と健康」と題した大きな屏風状の写真パネルです。爆撃によるけがなどの「外傷」、妊婦の出産を扱う「母子保健」、エボラ出血熱などの「感染症」、迫害やレイプ、殺人、爆撃などに遭遇しての「心の傷」、「栄養不足」が援助の対象となる5つのニーズです。
 そして悲惨な難民を生みつづける地域も5つです。アフリカのチャド湖周辺、ボートで渡る危険な航海の地中海、爆撃のシリア、迫害されるロヒャンギャ族、中米。どこの難民も命からがらの避難で、組み合わされた写真の1枚1枚が胸を打ちます。難民キャンプの和式トイレなどの実物展示もあります。リビアの難民収容所は1人あたり70センチ四方のスペースにギュウギュウ詰め。医師団が録音したテープはさまざまな騒音と難民の叫びでいっぱいでした。
 会場の半分は国境なき医師団の活動紹介です。日本製四輪駆動車、わずか5分でふくらませる外科治療テントの実物展示が目を引きます。2人の医師が自分たちの経験をスライドを使って解説してくれました。
 国境なき医師団には 4万5000人もの人たちが参加しています。半数は医師や看護師などの医療関係者ですが、半数は一般の人たちで支援作業をしているそうです。世界70カ国で年間1000 万人以上の難民や貧しい人たちに医療を提供しています。
 爆弾の恐怖、感染症や出産、栄養失調での死亡を身近にしての医療活動、本当に頭が下がります。しかも、犠牲者は次々に出て、尽きることがないのですから、やり甲斐と同時にやり切れなさも感じそうです。争いをなくすためと、アフガニスタンの農地回復をめざした中村哲医師も思い出します。
 エンドレスジャーニー(終わりなき旅)は、人間の素晴らしさと同時に愚かさを感じさせ、複雑な気持ちになります。

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