田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(32)東北に医学部ができる?
東日本大震災で被災した東北地域に医学部を新設しようという計画が急に具体性を持ってきました。医療界の反対が強く、一旦は鎮静化したという感じでしたが、いろいろな政治工作で息を吹き返した様子です。安倍首相が文部科学相に再検討を指示、文科省が、医学部新設を禁じた告示を見直す方針を決めたようです。
宮城県の村井知事らは医師不足対策として早くから東北に医学部を増やしてほしいと運動していました。日本は現状では先進国に比べて医師数が多くないことは事実ですし、都市部に偏在・集中しています。
どんな問題も、根本原因を探り、適切に対応しなければ解決しません。日本でほとんどの問題が永久に解決しないのは、そうしたやり方をあえて避け、中途半端ですまそうとするからです。あるいは別の目的で対応がなされるからです。
医学部の卒業までに6年、臨床研修が2年で、最低でも8年かかります。これから新設しても10年、戦力になるまで12、3年でしょうか。東北の医師不足はそれまで待てるのでしょうか。今、全国の医学部は定員枠を広げ、ひところより年間1000人以上多く教育しています。先進国の平均医師数に達するのがちょうど12、3年後です。
東北に医学部ができ、地元出身の医師が増えれば、ある程度状況はよくなるかも知れませんが、自由に勤務地を選べる現状では限界があります。制限を設けるか、東北の魅力を高めないと難しいでしょう。
国立や県立の医学部であれば、授業料が安いので全国から受験生が集まります。東北出身者に限る、東北地方の勤務を義務づける、などの条件が必要かも知れません。私立の新設には莫大な民間投資が必要です。学生をいまの私立と取り合うことになりますが、実績のない新設校に東北の優秀な学生が集まるかどうかは疑問です。
医師の養成には国立でなくてもかなりの税金が投資されます。新設に熱心な人たちがどこに価値を見い出しているのか、ちょっとふしぎです。