田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(310)自己免疫疾患患者の作品から
関節リウマチやクローン病などの自己免疫疾患の患者が絵画や工芸などの作品を通じて自分の気持ちなどを訴えてもらい、病気も広く知ってもらおうという珍しい企画「アッヴィ自己免疫疾患アートプロジェクト」に立ち会いました。アッヴィは米国に本社のあるバイオ医薬品会社で、治療薬を開発し、販売しています。日本支社のアッヴィ合同会社(東京都港区)が昨年、作品を募集、患者161人の応募作品233点から最優秀賞など10点が入選、6月20日、東京で表彰式が行われました。
最優秀賞1点は東京都在住、30歳の乾癬(かんせん)患者、久慈唯華(ゆか)さんでした。「やっと生まれた」と銘打った作品は、中に子どもがいる卵形のオブジェです。応募作品には説明や気持ちをつづるエピソードがついており、表彰式で入選者はそのエピソードを踏まえて挨拶しました。久慈さんは小学生で尋常性乾癬に。皮膚がひどく汚く、中学生時代は皆から孤立、殻に閉じ籠もりました。3年ほど前から治療効果の高い生物製剤のおかげで妖怪から人間に生まれ変わったと感じ、その気持ちを表現しました。
優秀賞2点のうち京都府在住、57歳の熊谷正代さんは10年前に潰瘍性大腸炎になり、腹痛や下痢などに苦しんでいます。好きなものを食べすぎると痛み、体調が悪化します。食事の夢を数十のミニチュア食品をテーブル上に並べた工芸作品で表現しました。タイトルはずばり「食」です。
もう1点、茨城県在住の岩本紗和さんは5歳の幼稚園児です。1歳で若年性特発性関節炎、3歳からブドウ膜炎も加わりました。「歩く・走る・跳ぶ」は元気な両足を赤、黄、桃などの明るい貼り絵で表現しました。
このほか審査員賞、佳作には全身性エリテマトーデス、腸管型ベーチェット病、関節リウマチなどの患者の絵画、マンガ、ちぎり絵などが選ばれました。
また、審査員でもある山中寿・山王メディカルセンターリウマチ・痛風・膠原病センター長ら専門医3人が代表的な自己免疫疾患の病状や治療法の変遷などを講演し、こうした病気への理解を訴えました。
10人のうち1人は体調不良で欠席でした。参加した受賞者は症状も目立たず、元気そうでしたが、挨拶からは時々の痛み、全快への願いがうかがわれました。