医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2019年5月27日

(306)認知症の予防は至難の技


 「70代で認知症になる人の割合を6年間で6%減らす」という政府目標が5月16日に公表されました。新聞の大見出しに、ひょっとしたら確実な予防策が登場したのかとも思いましたが、実はそうではなく、あくまでも願望。介護人材の不足や社会保障費抑制に対応するにはもっと認知症を減らす必要がある、そのためには運動不足や孤立などを減らすため、地域で運動や交流の場を増やす従来策をより徹底し、認知症になる時期を 1歳遅らせようという計算でした。
 政府の認知症対策、つまり2015年の「新オレンジプラン」 (認知症施策推進総合戦略) では「共生」、つまり認知症への理解や支援態勢が中心でした。それを近く「共生」「予防」の 2本立てにする布石のようです。介護関係からは、予防が加わることで「成人病」が「生活習慣病」と変わった時と同様、患者の自己責任が強調されるのではないか、との懸念も出ています。
 世界保健機関(WHO)の認知症予防ガイドラインでは、運動と野菜重視のバランスよい食事、高血圧や糖尿病の適切な管理を勧めています。理想の食事とされる「地中海食」は欧米諸国の洋食よりはずっと和食に近いのに、日本人の認知症は多いのが不思議です。食塩の取りすぎ=高血圧、ご飯とめん類の糖質過多=糖尿病、で帳消しになっているのかも知れません。
 散歩や趣味で認知症を予防しようと指導していた著名な医師が認知症になったと聞き、驚きました。他人に勧めながらご自分の実践が足りなかったのか、それだけでは不足なのかと考えこんでしまいます。
 認知症は脳の病気です。少なくとも運動不足が認知症を促進しているのは確かで、収容者をなるべく動かさないよう介護している老人ホームや病院がどんどん患者を生んでいます。施設にもっと予算を投入すれば年に1%どころか、2割、3割も発病を減らせるはずです。それなのに費用を削減し、結果的にますます患者が増える将来が見え見えです。自分や家族のためのプランが必要です。

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