田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(301)医師の働き方改革、夢にならないように
やる気があるのか、本当にやれるのか、と懸念していた医師の働き方改革です。3月28日に厚生労働省の検討会が残業時間の上限値を公表しました。今年、または来年からの一般企業に比べると、2024年度からの医療界は猶予期間があるとはいえ、間際になって泣きつく病院の様子が目に浮かびます。
医師、とくに病院勤務医の労働は信じられないほど過酷です。朝から外来、午後は入院患者の診療、そして夜勤・当直し、翌朝も外来や手術、など、24時間とか30時間とかの長時間勤務です。患者としても何とかしてあげたい気持ちです。
検討会の報告書によると、勤務医の残業時間の上限は原則、年960時間になります。ただし、医師不足地域の病院や救急病院の勤務医は特例で、35年度までは年1860時間とします。対象約1500病院と見られています。病院勤務医の残業時間は15年ほど後には960時間までに短縮されるという青写真です。なお、これとは別に自ら技能習得を求める研修医などは年1860時間を上限とします。
改善後も勤務医は過酷です。最終目標の960時間は一般労働者が許される最大残業時間で、過労死ラインにかかっています。1860時間はその2倍近くです。
そもそも勤務医の1割はいま1900時間以上の残業をしています。日本医師会調査では5年間で1860時間以下にできると答えたのは特例対象821病院のうちたった半数で「対応困難」が2割でした。まして960時間は夢のまた夢、のようです。
仕事量に見合うだけの医師がいないことが長時間労働の根本原因です。医師を増やすか仕事量を減らすかですが、医療機関だけで解決は不可能です。医師の養成、女性医師の勤務形態、病院の統廃合や自由開業の規制などで勤務医を増やし、補助職員増、看護師や技師への業務移管、新たな専門職、患者の受診規制、有効な予防医療などで仕事量を減らすことも必要です。公的医療のあり方を見直すべきだと、20年、30年も前から指摘されながら、公的医療を主宰する厚労省はいつも先送りしてきました。5年後、15年後も、ただ取り締まる、現実に配慮して猶予期間の延長、では困ったものです。
検討会報告がそのまま報じられていたとしたら、欧米の病院や医師は腰を抜かさんばかりに驚いたと思います。諸外国の勤務医の働き方をもっと真剣に学ぶべきでしょう。