田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(294)高額治療にどう対応します?
もしも自分が財務省の役人だったら、とつい考えこんでしまうような話です。 2月21日の厚生労働省の会議でけたはずれな超高額薬の認可が決まったというのです。
難治性白血病の治療薬「キムリア」は遺伝子治療「CAR-T細胞療法」の製剤です。患者の免疫T細胞を取り出し、遺伝子治療でがん細胞を認識するCAR(キメラ抗原受容体)を発現させ、T細胞を生きた抗がん剤に変えます。2017年9月に米国で、昨年7月に欧州で承認されています。高度な技術が必要ですが1回の点滴で完治の可能性が高い治療です。しかし、米国の価格が5000万円前後というから驚きです。
思い出すのは「年1人分3500万円」といわれた抗がん剤オプジーボです。日本生まれの薬とあって2014年、世界に先駆けて日本で認可され、保険薬価も優遇されました。患者が少なく使用量も少ない悪性黒色腫はよかったのですが、翌年の非小細胞肺がん適用で一挙に問題になりました。日本の薬価は米国の2.4倍、英国の4.8倍の高額でした。適用が広がったこともあり、オプジーボの薬価は17年から半額になり、現在は当初の4分の1になっています。
その後もいくつかの超高額薬が出ましたが、今度はキムリアの番です。日本の保険制度を維持するには薬価の決め方や保険適用の見直しなどの議論が不可欠です。薬価はもともと製造費用とあまり関係がなく、巨額な研究開発費を強調して高薬価を求める製薬企業と国や保険機関の交渉で決まります。米国も近年は日本に似てきて、企業への配慮が強くなっている感じで、基準になりうるかどうかも疑問です。
日本の保険制度は患者への利便だけでなく、医師や企業にも十分役立ってきたと思います。欧米では医師は慎重で新薬の普及は緩やかですが、日本は逆で乱用が目立ちます。超高額薬や超高額治療法も次々に開発中で、保険制度がいつまで存続できるか、怪しくなってきました。超高額薬や超高額治療法の保険適用は、受ける患者や治療する医師や病院を制限したり、キムリアで米国が採用したといわれる有効度に応じた価格支払いなども早急に検討すべきでしょう。