医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2019年2月18日

(293)池江選手の白血病公表に感動

 月並みですが、先週一番の感動は競泳の池江璃花子選手の白血病でした。2月12日、自身のツイッターでコメントを発表しました。いまどきの18歳女性とは思えない深みを感じる内容でした。「未だに信じられず、混乱している状況」は当然ですが「しっかり治療をすれば完治する病気」「治療に専念し、1日でも早く、またさらに強くなった池江璃花子の姿を魅せられるよう頑張っていきたい」との文章は、診断を受けた直後の患者さんとは思えないほど前向きです。
 細胞が異常に増殖するがんは高齢者の病気と思われがちですが、白血病は子どもや若い人にも多い血液のがんです。血液には白血球や血小板などの種類があり、侵入したウイルスと闘うリンパ球のがんがリンパ性白血病、その他の血液細胞のがんが骨髄性白血病で、それぞれ急性と慢性があります。池江選手の白血病の詳細は公表されていませんが短い期間での症状発現から急性白血病だろうと推測されます。どちらのタイプもまずは抗がん剤で増殖を抑えます。再発した場合は骨髄や臍帯血などの造血幹細胞移植という完治も期待できる治療手段があるのが救いです。
 骨髄移植は患者の骨髄組織を抗がん剤などで殺し、別の骨髄組織と入れ換える大がかりな治療です。白血球の型が近い必要があり、提供者を斡旋するのが骨髄バンクです。80年代から設立を求める運動が活発化し、91年に骨髄バンクができ、93年1月、バンクを経た移植が初めて行われました。25年も経ち、治療法として確立しています。10代の白血病の治癒率は 7割といわれます。池江選手の再起は患者さんや家族をこのうえなく励ますイベントになるはずです。
 ところで白血病の原因は何なのでしょうか。染色体の異常といわれてもなぜ異常が起きるのかが不思議です。年々増えているとか、日本人は欧米人と違って骨髄性が多いとかもいわれます。政府はイノベーション (技術革新) に力を入れているそうですが、医学研究もこうした根本の謎にもっと真剣に取り組むべきではないでしょうか。

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