田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(260)気づいたら過労死、は困ります
安倍政権が最も重視しているという働き方改革関連法案が参議院に送られ、最終段階にきています。絶対多数を有する自民・公明の与党が賛成しているのですから、余程の天変地異でもない限り、今の国会で成立します。ああ、これでは世界語になった日本の「カローシ」(過労死)がますます増える、と暗い気持ちになります。
日本の法律は抜け穴だらけです。労働者を守るため労働時間を規制している労働基準法は、労使で協定すればいくらでも残業できます。それではと今回の法改正では残業時間を原則年360時間を上限と決めましたが、「特別な事情」で720時間、さらに「特例」では過労死レベルの960時間まで可能、との大穴付きです。また、高所得の専門職は残業規制・残業代をなくせる「高プロフェッショナル制度」になります。省令で決める対象職種は、派遣社員の範囲同様、どんどん広がる可能性があります。どれだけ犠牲者が出ようと政治家や官僚は責任がないらしいので気楽です。
実は先週6月13日に東京で開かれた「過労死110番30周年記念シンポジウム」に参加しました。「過労死110番」は1988年に大阪、そしてすぐに全国7カ所へと広がった過労死弁護団の相談電話です。過労死防止学会代表幹事でもある森岡孝二・関西大学名誉教授はこの電話が過労死の労災申請、認定へと発展したことを高く評価されていました。日本は労働時間の規制が甘く、長時間の労働・残業が常態化し、悲惨な過労死を次々に生み出しますが、これは本来は労働者を守るべき労働組合が労働時間の短縮に取り組まなかったからでした。「がんばったのは何十万人もの大組合ではなく、少数の弁護士からなる過労死弁護団と亡くなった労働者の家族会」との森岡さんの話がとても印象的でした。
今回改正の抜け穴も連合などの労働組合団体のトップが了承しています。そもそも多くの企業の組合幹部は経営者と親密で、経営陣への出世も珍しくありません。賃上げが労使交渉でなく、首相の要請で経団連が了解、という流れが不思議でなくなっています。多様な働き方への改革も、働き手の労働界ではなく、働かせ手の経団連や財界の要望というのも不思議な流れといわざるを得ません。
素直な若い人たちが、言われた通りに残業し、気づいた時は過労死、とならないで欲しいものです。