田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(249)「当事者」研究になるほど
「科学者として/当事者として研究すること」というタイトルの市民公開講演会が3月25日、東京大学で開かれました。障害などを持つ人本人がその経験をふまえて自分たちのことを研究する「当事者研究」がテーマでした。さまざまな人文系、理科系研究者が参加する「『個性』創発脳」研究領域代表である大隅典子・東北大学大学院教授 (発生発達神経科学) から案内をいただき、聞いて見る気になりました。東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎・准教授が講演の後、対談で大隅さんが質問をしたり意見を述べ、熊谷さんが解説や意見で補うといった内容です。
熊谷さんは小児科医ですが、自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害である「自閉スペクトラム症」当事者です。身体の障害もあり、車イスを使い、人の助けを借りながら診療し、手術もしました。
熊谷さんの話の後半は研究的要素が多く、私が理解できたのは基本的な部分です。障害がある人はいろんなことができません。1970年代までは障害を医学的に解決しようとしましたが、当事者の意見を聞くことで80年代は障害を社会環境で解決することも重要だとわかりました。熱心なリハビリで自分の能力を変えることより環境を変えるほうが容易です。車イスでは階段を登れません。しかし、エレベーターを設置すれば車イスでも二階へ登れます。当事者が研究し、デザインし、サービスを生み出すことで障害を克服しやすくなるはずです。障害者を健常者に近づけ、個性を消すことが回復なのではなく、多様な個性を認める社会を当事者は望んでいる、といったことでしょう。
障害の有無にかかわらず、日本はちょっとした違いで差別する社会です。学習指導要領絶対の教育からして同じ知識や考え方を強制します。外れた変わり者を学校も企業も社会も政府もいじめて排除します。まして障害があれば…深刻だったはずです。
講演会のおかげで、多様性や個性の大事さを改めて考えさせられました。日本社会、日本人が変わっていけたらいいな、と願わざるを得ません。