田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(246)医療器具の消毒再使用、いい方向へ
医療分野では使い捨ての器具類が目立ちます。専門用語では「単回使用医療機器」 (SUD)と呼んでいます。きゃしゃなプラスチックですぐ形がゆがむ、といった器具ならイメージに合いますが、頑丈な金属製品で、しかも手術時の数時間だけ使う器具、それも何千円、何万円、時には数万円以上もする器具が原則使い捨てなのです。救急現場では器具の封を切った段階でサイズの間違えに気づき、使わないで捨てることもあります。外から見ると、資源の浪費で、本当にもったいない。医師や看護師が医療費の節約や効率に無関心なのはSUDに触れる日常のせいではないか、と思ってしまいます。
SUD絡み、といえば従来は事件報道でした。スクラップを見ると昨年8月、兵庫医大病院の整形外科や脳外科でSUDの手術機器を滅菌し、再使用していたことが発覚しました。通報(多分、内部)があり、近畿厚生局などが指導に入りました。続いて10月には大阪市大病院でも整形外科など 7診療科でSUDの再使用が報道されました。
器具を別の患者に使わないのはもちろん、感染の危険を避けるためです。日本がC型肝炎まんえん国になった主因は無消毒の医療機器でした。しかし、洗浄法や分解・再組み立てなど工夫して消毒すれば感染の危険はゼロに近づくのも事実です。
厚生労働省がうるさく言いだす前は有力・有名病院の多くがSUDを院内で消毒・再使用していました。同様の欧米では条件付きで再使用を認める方向に進み、日本は逆に規制を強め、減らしてきました。現実的な欧米、建前の日本の差を感じます。
今年1月、その日本で「単回使用医療機器再製造推進協議会」という企業9社の団体が発足しました。個々の病院に代わって消毒する企業です。「再製造」という言葉が入っているのは、病院の消毒とは違って、器具を分解して洗浄し、組み立て直す、徹底した消毒をするとの意味です。その分、コストはかかります。
こっそりの時はもちろん患者には再使用とは知らせず、病院は新品として医療費を請求しました。オープンにし、ジェネリック薬同様に再使用は低価格にすれば、患者にもプラスになります。資源の節約からすると、SUDのメーカーはわざわざ洗浄しにくい器具を作らず、厚労省も再使用しやすい器具をメーカーに求めていくべきでしょう。