医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2013年8月5日

(23)製薬企業とお医者さん

 高血圧治療薬「ディオバン」 (一般名バルサルタン) をめぐる話には、正直いってがっかりです。製薬企業の意図、それを許す研究者や医師という日本の現状は本当に構造的なものです。また、それを知ってか知らずか、信じ込んでどんどん処方する一般のお医者さんも問題です。
 7月30日の東京慈恵会医大の記者会見で多くのことが分かりました。製薬企業のノバルティス・ファーマ社が送り込んだ社員が有利な方向にデータを操作したこと、また、研究者も後でノバルティス社の社員と分かったのにそのままにし、虚偽の文言を論文に記載していたこと、です。明らかなねつ造があった京都府立医科大学では「データ操作はあったが、だれがしたかは不明」、慈恵医大の前日のノバルティス社は「データ操作があったかどうかも不明」などと発表したことにくらべれば、格段に誠実でした。
 それでもびっくりしたのは、社員と分かっても医師が驚かなかったことです。大学の先生方と製薬企業との癒着です。大学の先生は学会を主催したがりますが、その時は製薬企業が頼りです。恩義を感じていれば邪険なこともいえない、というわけです。ノバルティス社は慈恵医大に3年間で8400万円を投資したのですが、ディオバンが脳卒中や心筋梗塞を減らすとの今回撤回する論文で何百億円も回収できたことになります。他の薬だって似たようなものと勘繰りたくなります。
 ノーベル賞のiPS細胞を人間に使ったとの虚偽を新聞報道させた変な研究者もいました。それがきっかけで、私が副会長を務める日本医学ジャーナリスト協会では、年内にも医学報道をめぐるシンポジウムを企画しています。医療ジャーナリストの責務を問うものですが、先日の幹事会では、医師の倫理問題も含めたもっと大きなテーマにすべきではないかとの意見も出ました。

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