田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(209)研修医自殺で医師の過労勤務俎上に
新潟市民病院の女性研修医が、長時間労働によるうつ病が原因で自殺したとして新潟労働基準監督署が労働災害と認めたとのニュースがありました。37歳の女性は看護助手から医師をめざし、15年4月から消化器外科に勤務していましたが、秋ごろから体調を崩し、16年1月に睡眠薬を飲みました。遺族の調べでは時間外労働は4カ月連続で月200時間を超え、労基署も直近1カ月は160時間超と認定しました。
98年に関西医科大学病院の研修医が心筋梗塞で亡くなった事件を思い出します。この事件で「研修医は労働者」との常識が確立し、研修医に給料が払われ、労働時間が制限されることになりました。それはそれでいいのですが、医療界の不思議なところは、その時点で研修医を卒業していた先輩医師は、従来通りの研修医以下の給料、制限時間なしの長時間労働を強いられる不合理が続いたことです。
ところで、昨年の電通職員の自殺事件などから長時間労働の弊害が叫ばれ、働き方改革が政治的な課題として急浮上しました。日本ではちょっとした職場ならどこでも残業残業で長時間労働が当たり前です。そして、群を抜いてそれらのどこよりもひどいのが病院の勤務医です。外来、入院患者の診察、夜勤、当直、翌日の外来など、36時間、40時間といった連続勤務が珍しくありません。国が決めた医療費では、病院は医師を増やすことができないからです。医師の長時間労働は国が強制しているようなもので、私は、民間会社の職員は働き方改革できても勤務医はとうてい無理、と考えていました。
ひょっとしたらそうではないかも知れません。06年に奈良県立病院の2人の産婦人科医が当直や自宅待機の分の時間外賃金の支払いを求める訴訟を起こしました。この裁判は13年の最高裁で医師が勝訴しましたが、すぐに変化は起きませんでした。
ところがです。新潟市民病院事件の関連ニュースでは、すでに全国のいくつかの労基署が著名病院に長時間労働の是正を勧告しており、たとえば聖路加国際病院は今年6月から土曜日の外来診療の多くを休診することにしたとのことでした。
最も難攻不落と目された医療界が変われるならば、日本社会全体が変わる可能性があります。痛ましい犠牲者がこれ以上出ないうちに、と願っています。