医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2017年2月6日

(191)またか、とがっかり医療ミス

 最近はあまり聞かなかった医療事故が2月1日付けの新聞に2つも揃って出ました。どちらも確認不足による医療ミス。医療事故の原因はさまざまですが、だれにもわかる単純ミスほどメディアも大きく取り上げやすいし、何より読者、つまり患者側にもわかりやすいのです。しかも、ミスがあったのは2015年の東大病院と、慈恵医大病院。国民の多くが最高レベルと信じている大学病院で、しかも国立と私立を代表する2つです。
 東大病院では看護師が入院患者の薬を間違え、翌日、男児が亡くなりました。各紙の報道によると、看護師がナースステーションで薬を溶かし、鼻から胃へのチューブで入れる準備をしていたところに電話があり、作業を再開した時に、近くにあった別の患者の注入器具と間違えた、ということです。別の患者用は抗てんかん薬や抗けいれん薬など13種類もの薬があり、子どもには多すぎる量だったようです。男児もいろんな臓器に重い症状があり、10数分後には容体が急変しました。明らかに薬が原因と考えられます。
 後から検証すると、どんな事故も防げたはず、との思いにかられます。看護師は男児の注入器具に氏名を記入しました。しかし、別の患者の注入器具は無氏名でした。それなのに看護師はそのまま注入してしまったのです。
 多くの病院では検査や注射、薬の前にしつこく「お名前は?」と確認します。ばかばかしい行為には見えますが、東大病院ではやっていなかったのでしょう。また、記名は機械的だったのか、やらない看護師もいたのか、疑問です。
 一方、慈恵医大病院では、放射線科の検査で1年前に肺がんの疑いが指摘されていたのに主治医が気づかず、治療不能の状態になったというのです。しかも、この患者は妻を別の大学病院の医療事故で失い、医療過誤原告の会の役員を務め、事故防止を呼びかける活動をしていました。患者対応に差をつける意味ではなく、個々の患者の意思や状況に配慮する意味で、より慎重であってほしかったと思います。
 人不足で超多忙、はよくわかりますが、医療の目的は何より救命や症状改善です。それが不十分では医療そのものの意義が疑われます。

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