医療ジャーナリスト 田辺功

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田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」

2013年7月8日

(19)医療ジャーナリストの仕事は

 自分が何をやるべきか、といったことを、久しぶりに考えました。さる6月27日夜、東京大学大学院の薬学系研究科の教室で「医療ジャーナリストは何をするのか」といったテーマで話す機会ができたからです。かねてよく知る津谷喜一郎教授から頼まれました。聞けば伝統ある恒例の会で、私の知る何人もの高名な先生が話していました。
 ジャーナリストの仕事は報道することです。私は朝日新聞社に40年在籍し、医療報道を担当していました。報道は「何を」「だれに」「どう」伝えるかが大切ですが、私がそれ以上に重視してきたのは「目的は何か」です。私は「患者さんに有益な情報を」「患者さんに分かるように」「それが広く普及するように」と努力してきたつもりです。
 医療に限らず、政治も経済も、今の報道は物足りない感じがします。本当に読者に有益な報道かどうか、疑わしい記事が多すぎます。近ごろはほとんどの記事は、政府・自治体や学会や企業などの情報源からの発表です。政府はご都合政策の実現、学会は患者増、企業は製品販売が目的です。それをそのまま報じる報道はちょっと問題です。
 iPS細胞のノーベル賞受賞が決まった直後、ハーバード大学に留学中の日本人研究者がすでに6 人の患者にiPS細胞から作った心筋を移植した、という報道が『読売新聞』などでありました。すぐに誤報と判明しましたが、いまの記者が、情報源のいうことを鵜呑みにしているだけ、との現実を露呈しました。政治家や行政のでたらめな話が新聞やテレビで毎日報道されています。移植学会による修復腎移植の否定、日本のメタボ基準、健康診断の基準値などインチキくさい話が、ふしぎにまかり通っています。私たちが第一線の時は、行政や学会をやっつけることが痛快だったのですが、いまの若い記者たちは素直に説明に納得するようです。
 薬学研究者の皆さんを前に話しながら、後輩たちがやらないならまだまだ私たちがやらないといけないな、と痛感しました。 

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