田辺功のコラム「ココ(ノッツ)だけの話」
(185)長時間労働、医師は昔もいまも
長時間労働が当たり前、といえば、実は勤務医がそうです。電通や飲食店とは性質の違う問題かも知れませんが、共通の根もありそうです。
私は2007年春、『朝日新聞』で「ドキュメント医療危機」を連載しました。柱の1つは勤務医の過重労働です。朝から外来、午後や夕方は入院患者の診療、夜勤・当直、翌日の診療まで、の連続勤務が普通です。夜勤や当直は建前では休んで寝られるはずなのに、実際は急患や入院患者の対応でほとんど眠れず、翌日の外来を何とかこなして交代、といった状況でした。しかも、十分な報酬が支払われていないことが多いのです。
連載では、06年に奈良県立病院の産婦人科医が、急な分娩に備えて義務づけられている自宅待機時間の手当て要求の訴訟提起したこと、急死した関西医大病院の研修医を労働者と認めて賃金支払いを命じた判決が05年に最高裁で確定したこと、自殺した小児科医の労働災害認定などから、医師の労働の過酷さを紹介しました。
奈良県立病院の事件は13年、医師が勝訴しました。ごく一部の病院は判決の趣旨にそった支払い制度を取り入れたものの、多くは従来のままのようです。研修医は勤務時間が規制され、ちゃんと給料が支払われるように改善されましたが、研修医を卒業した先輩医師は長時間勤務、研修医以下の低賃金のまま、という不条理な状況が続いているようです。要するに、根本的にはほとんど変わっていないといえます。
眠気の取れない状態で翌日の診察や手術は大丈夫でしょうか。それで通用しているのは医療の中身は病院や医師任せで、レベルが低くてもいい、となっているせいなのに、国民や患者はまったく知らないからです。
医療現場も、必要な人数が少なすぎる。あるいは仕事量が多すぎます。米国では医師は外来で 1日10人とか15人診るところを、日本では30人、50人が普通です。日本人の受診回数は欧米の数倍といわれます。短時間だから回数が増えるのか、回数が多いので短時間で済むのか、いずれにせよ、医師は忙しいはずです。
病院は入院のみにするか、せめて質を保つために外来受診患者数を規制する、といった対策が必要なことは関係者には昔からわかっていたことです。わかっていてもやれない、それが日本らしい、と思うしかないのでしょうか。